映画『黄金を抱いて翔べ』
最近の日本の映画は、テレビドラマで人気のシリーズを劇場版にして中身は2時間スペシャルレベルか、人気タレントを主演させて人気マンガ人気小説を映画化して中身はガックリか、そんなかんじなんでこのままでいいのか日本の映画といらんお世話を焼きたくなります。『 黄金を抱いて翔べ』は高村薫の衝撃のデビュー作の映画化です。銀行の地下金庫に眠るのは240億の金塊、それを強奪するために集まったのは鍵師、セキュリティエンジニア、エレベーター技師、爆弾マニア‥‥彼らの大胆かつ緻密な計画は間違いなくうまくいくはずだった‥‥。なよなよふわふわした日本映画ばかりのなかで、よくぞこれだけ硬派で武骨な映画を作っていただきました。感謝感激です。なんせ、原作があの高村薫先生ですので、原作からすでに硬派で武骨、しかも金塊強奪なんてもういまどき時代錯誤も甚だしいネタなのに、よくぞここまで映画化してくれました。原作未読ですけど。高村先生の本は読むのにものすごく体力がいるんで、コンディションが整ってないと読めないんですよ。今度原作を読むつもりです。それだけおもしろかったです。すばらしかったです。映画の撮り方が実にハードボイルドな手法を使っているのがこの作品にピッタリマッチしています。ようするに、余計な情景描写を入れないのです。説明的な描写や心理業者に関わる映像は一切なし、登場人物の過去を断片的に挿入するのみ、この硬派な映画の撮り方がたまらない。観客には、その映像から登場人物の過去を想像させるのです。そのクセのある登場人物を演じるのは、観客駆動員を意識してイケメンを揃えていますが彼からイケメンを売りにしていない演技をしているのがまたいい。特に主演の妻夫木聡、生きる事に絶望しつつ生きる事を放棄しない泥棒鍵師の鬼気迫る演技は、トヨタのCMでのび太くんを演じている俳優とは思えない、男臭さが出ていました。当然、いまどきの映画によくある美少女なんて出てきませんよ。いまはやりの草食系男子が肉食系女子に振り回されるようななよなよした映画ではないですから。物語の進行も全編武骨で硬派です。前半の強奪計画の準備を進める中で起こる数々のトラブルも、めんどうな細工なんてしないですよ、拳でケリを付けるのみ、そしてクライマックスの銀行襲撃も金庫破りも、モバイルパソコンを使ってセキュリティ解除だのパスワード解除などといったチャラチャラした嘘くさいシーンなんてなし。爆弾とバールですよ。このアナログさがじつに生々しくリアルなのです。この映画を見てて思い出したのは深作の「いつかギラギラする日」きっと深作監督はあの映画を撮ってる時に、本作のような映画にするつもりだったんだろうなあと思いました。この映画を撮ったのは「パッチギ」の井筒監督、私はこの人をバラエティ番組でエラそうな事言ってるウザいおっさんとしか思ってなかったんですが、いやー、エラそうなことを言うだけの事はあります。この人にはこの調子の映画をどんどんとてもらいたい、なよなよしてる日本映画に鉄槌を下して欲しいです。