関係フレーム理論
第3節 関係フレーム理論<第1>関係フレーム理論(RFT)と認知的フュージョン 「言葉」で事実と同様の不安、恐怖が起きる。不安障害によくみられる広場恐怖の拡大がある。実際経験していないのに、不安の対象が拡大していくことを説明するのが関係フレーム理論、認知的フュージョンである。また、変化する内容と変化しない外枠とか、理解だけによらずに、訓練によって問題行動が解消していくわけも説明している。 関係フレーム理論の要約を最初にみておく。次のように要約される。 「体験の回避を説明しようとする学習理論の一つである関係フレーム理論(RFT, Hayes, et al., 2001)は、言語と認知の機能に着目している。人間は、刺激の関係を最初は一方向にしか学習しなかったときでも、それら双方向的に連合させることができる。この学習のユニークなところは、思考、イメージ、情動といった内的体験がそれが表象する現実の事象と同じ機能を果たし得るところである。Hayes(2001)は、関係的な反応、つまり一つの事象に、他の事象にするような反応をすることは、まず人間社会における言葉のやり取りの中で強化されると考える(例えば、二つの事象の関連を学習するプロセスを言葉で表現することを強化しあう)。このように、双方向的な連合の学習は、それによって、コントロールが容易になるという関係の道具的な力のために、維持されていると考えられる。 皮肉にも、人はこのような内的体験を理解することはできても、そこから逃れるすべはもっていないようである。思考や感情のような内的事象を避けようとしてもうまくいかないことが示されている(Gross & Levenson, 1993, 1997; Wegner, 1994)。しかし、思考制御は短期的にはうまくいく場合もあるため、それが逆効果であることにはなかなか気づかない(Gold & Wegner, 1995)。よって、人はむなしく思考制御を続けてしまう。 同時に、人間は、文字通りの評価的な言語によって、将来を心配したり、物事を恐れたり他者と比較して劣等感を抱くこともできる。さらに、自分の反応を病的とか嫌悪的などとラベルすることもできる( Hayes et al., 2001)。このような言葉は、それが指し示す現実(自己像も含む)と同様に体験される。この現象は認知的フュージョン(congnitive fusion)と呼ばれている(Hayes, Strosahl, et al., 1999)。否定的に評価された事象は、認知的フュージョンのために、永続的な自己像にも響くなど、より嫌悪的で危険なものに見えてくる(Hayes, Strosahl, et al., 1999)。その結果、回避の対象になる。」(注1) <第2>関係フレーム理論の基礎 「機能的文脈主義とは、問題解決や研究・分析における自らのゴール選択や価値といった「文脈や機能」に対して徹底的に自覚的であろうとする徹底的行動主義(行動分析学)の立場のことである。」 そこで、「そのような機能的文脈主義(「行動分析学」と相互に交換可能な術後として扱う)の立場から言語がどのように捉えられているのかを検討する。」(注2) 認知的フュージョンは、マインドフルネス心理療法による治療の方針の妥当性に関わるので概略を理解する。行動分析学では、言語は以下のように定義される(注3)。 (1)「言語」も行動ととらえる。(2)行動随伴性という分析ユニットから「円滑な相互交渉のパターン」をとらえる。行動随伴性とは、以下の3つのユニットからなる「三項随伴性」という枠組みである。 弁別刺激→行動(オペラント)→結果(強化) (3)そのユニットは、生起した行動によって生じる環境的変化(=「行動→結果」の関係 )を軸とした分類法である。 「行動に後続する環境的変化(=結果)が何らかの影響を与えたか否かを判定するには、その行動→結果」関係が複数回生起する、あるいは生起させられる必要がある。つまり「一回限り」の出来事は「予測と影響」のゴールに合致しないため、行動分析学の対象とはならないのである。また、行動分析学では、その「行動→結果」の関係のことを「機能」という。 <第3>刺激クラスと反応クラス 「「言語は単なる記号ではない」というテーゼを含んだ行動分析学のスタンスを保持しつつも、「言語の記号的な機能はどのように扱うことができるか」について言及していくこととする。」 「三項随伴性」の刺激も行動(反応)も、一つとは限らない。複数ありうる。そこで、その「まとまり」をクラスと呼ぶ。 弁別刺激クラス→反応クラス→結果(強化) そのクラスの各メンバーは、機能的に共通であればよく、形態的に共通している必要はない。たとえば、電車を見ても、「電車」という言葉を聞いても、不安から回避行動を起こすならば、電車のイメージも言葉も刺激クラスになる。いくつかの<刺激→反応>を経験すると、直接経験しない組あわせの刺激→反応が成立する可能性が高くなる。(参照:図2-1、刺激クラス、反応クラスの確立プロセス)(注4) <第4>刺激等価性 以上は、<刺激→反応>関係を扱うが、<刺激A→刺激B><刺激A←刺激B>関係という、刺激と刺激の関係、双方向性についてみていく。 4つの条件を満たした場合、「刺激等価性の成立」という。(参照:図2-3、刺激等価性の定式化) (注5) 反射律: <A→A>という関係が訓練された後(見本合わせ手続きを表す)、未訓練の<B→B><C→C>という関係が成立していた場合、反射律が成立したとよばれる。 対称律: <A→B>という関係が訓練された後、未訓練の<B→A>という関係が成立していた場合、対称律が成立したとよばれる。 推移律: <A→B>および<B→C>という2つの関係が訓練された後、未訓練の<A→C>という関係が成立していた場合、推移律が成立したとよばれる。 等価律: <A→B>および<B→C>という2つの関係が訓練された後、未訓練の<C→A>という関係が成立していた場合、等価律が成立したとよばれる。 ただし、4のみ成立したとしても、刺激等価性が成立したとは呼ばない。 <第5>刺激等価性クラスによる機能の転移 「刺激等価性が成立した場合、従来の三項随伴性における弁別刺激と異なる機能獲得の過程を示すような、先行刺激による行動の制御が生起することが実証されている。それは「刺激等価性クラスによる機能の転移」とよばれる。」(注6) 「一般的には「概念」や「イメージ」による行動の制御と言われるものであろう。つまり、このような行動生起の機序は、非常に限られた経験から効率的な行動を生起させることができるというメリットがある一方で、行動レパートリーを狭めてしまうというデメリットにもなり得るのである。」 全く同一ではないけれど、モデル訓練によって、刺激に対する制御の反応のスキルが拡大していく。マインドフルネス心理療法は、マインドフルネスやアクセプタンスの心の用い方を体験的、訓練的に指導する心理療法である。セッション内で指導したものと同一ではないような個々のクライアントの不快事象にも汎用性を持って効果的な制御行動ができるようになるのは、この原理なのだろう。確かに、注意しないとクライアントによっては、形式にこだわって行動レパートリーをせばめる場合がある。セラピストの指導を受けないで自分ひとりで行なうとその確率は高くなるだろう。一定の期間は、継続して、セラピストの指導を受けるのがよいだろう。 <第6>フレーム 反応クラスのうち特殊な反応クラスがある。 「中身は変わることはあっても、外枠はいつも変わらない」かのような「まとまり」を示す反応クラス」を「フレーム」(またはフレーミング)と呼ぶ。 「そのような現象は、古くは「学習セット」あるいは「学習のための学習」と呼ばれてきた。また行動分析学では、より限定的な反応クラスとして「般化模倣」と呼ばれる現象として検討されてきた。」(注7) 「この「般化」は「模倣する」というフレームがヒトに内在するかのように、今までに模倣したことがない新奇なモデルに対して、強化されることがないにもかかわらず模倣反応が生起するという状態を指し示すために使用されている。さらに、そのような模倣は、いくつかの特定の模倣反応に対する強化率を変動させると、それと連動して他の強化されない個々の模倣反応も変動する、つまりフレームそれ自体が「一回り大きい反応」として消長しているかのような状態なのである。また、このような般化オペラント、つまり「フレーム」(フレーミング)を確立する必要条件としては「複数の範例による訓練実施が挙げられている。つまり、そのような般化オペラントも随伴性によって確立・維持されるものであるということを意味する。」(注8) このような現象を応用して、マインドフルネス心理療法では、種々のトレーニングが指導される。確かに、カウンセリングが進行する途中で、まだ指導していない学習内容(後のセッションで計画していたスキル)であるスキルを先回りして実行するようになるクライアントがいる。パニック障害の体験談のクライアントも指導しなかったような自己の見方の変容を起こしていた。他のクライアントも、セラピーを修了しても実践を継続していると、思いもしなかった向上が起きるかもしれない。ただし、そのためには、一定期間、種々の内容のトレーニングに参加する必要があるだろう。たとえば、長くトレーニングに通うと20のスキルトレーニングがあるとしたら、これらのいくつかが相互に影響して新しい一回り大きい反応パターンを獲得するかもしれない。 ところが、1、2回でトレーニングに通うことをやめて、自分でトレーニングすると、2,3個のトレーニングを長く継続することになって、一回り大きな反応パターンは形成されにくいだろう。 <第7>関係フレーム 「Hayes(1991)は、クラスという枠組みで刺激等価性を考えるということを一定に評価しつつも、それ以上に<刺激ー刺激>間の「関係性」として刺激等価性を捉え直すことによって、さらに研究の進展が期待できるとした。そのように提案した理由は、「関係」は「等価」に留まらず、その他の多くの関係性も「言語」や「認知」に深く関与しているからである。そこで、彼らはフレームという枠組みを援用し「等価」関係以外の関係性も積極的に扱かっていくことを指向した。それが関係フレームである。」 「関係フレーム」とは、フレームと呼ばれる般化オペラントのうち<刺激ー刺激>間の関係性に関するものを指す。その関係は、a)恣意的に適用可能で、b)派生的で、c)学習性で、d)文脈の統制下にあるという特徴を持っているとされた。」 「また、その関係フレームは、以下の3つの特性を持っている。その3つとは1相互的内包2複合的内包3刺激機能の変換 である。前節の刺激等価性で考えれば、1は対称律、2は推移律と等価律、3は刺激等価性クラスによる刺激の転移に相当する。特性自体も、関係性が異なるだけで、機能は同様なものと考えてよいだろう。」(注9)