店舗を持たず、自分の鑑定眼だけを頼りに骨董を商う「旗師」宇佐見陶子。彼女が同業の橘董堂から仕入れた唐様切子紺碧碗は、贋作だった。プロを騙す「目利き殺し」に陶子も意趣返しの罠を仕掛けようとするが、橘董堂の外商・田倉俊子が殺されて、殺人事件に巻き込まれてしまう。古美術ミステリーの傑作長編。
ここ最近、手持ちの北森鴻作品を消化しようと連続して読んでいます。
順次感想を書いて行こうと思いますが、今回は「狐罠」について書きます。
今作は骨董品業界を舞台としたミステリなのですが、抜け目のない古美術商同士の海千山千の騙し合いも描かれており、コン・ゲーム的な楽しみ方も出来るのが長所ですね。
当然、普段は馴染みのない骨董の世界を分かり易く描写しているので特異な世界観に戸惑うことも無く、読み進められるので言う事ないですし、こういう題材を選ぶからには欠かせない要素だと思います。
作品の中心となるのが、殺人事件ではなくて主人公・宇佐美陶子が騙された事に対する意趣返しである「目利き殺し」というのがユニークです。
騙そうとする相手もプロ中のプロだけに仕掛けも出し惜しみのない最大限の努力を払う様子が陶子を通して感じられ、嫌でも感情移入して読めますねw
二転三転する双方の駆け引き、そこに絡んで来る殺人事件の真相と無駄のない構成は褒めるしかないです。
脇に追いやられた感のある殺人事件もユニークな個性に似合わない有能さを発揮する捜査員・根岸と四阿の通称「犬猿コンビ」の語り、地味ながらハイヒールを巡る論理の応酬は良く出来ていると思います。
何よりも無能な警察の描写が嫌いな私にとって「犬猿コンビ」は陶子よりも魅力的に映りましたw
更に天才的な贋作師としての腕を持つ潮見や名前からして謎に包まれたプロフェッサーDと陶子の協力者も個性豊かですし、敵役となる橘董堂や細野慎一も一概に「悪」と言えない魅力を備えているのが巧いです。
あと、お馴染みの「香菜里家」も登場しているのがファンには嬉しい所ですね。
事件の発端となる出来事は、少し微妙な感じもしますが文句無しに楽しめましたし、非の打ち所の見当たらない傑作と言っても過言ではないですね。
短編の名手と言われる北森さんですが、十二分に長編でも傑作をモノに出来る事を証明した作品なのではないでしょうか。