カテゴリ:洋ロック・ポップス
アーティストとしての全盛期到来を告げる名盤 スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)は、12歳でデビューしたため芸歴は長くて、あと数年でデビュー50年を迎える。とはいえ、年齢的には、1950年生まれなのでようやく今年還暦を迎える年である。キャリアで言うと、レコード・デビュー年はビートルズと同じ1963年である。そのスティーヴィー・ワンダーの主な全盛期は2度ある。一つめは、彼のキャリアの中で“クラシック・ピリオド(古典時代)”と呼ばれる1970年代(中でもとりわけ1972~77年が名盤を連発した最盛期とされる)である。そして、もう一つの全盛期は、1980年代の商業的成功の時期である。 本盤『トーキング・ブック(Talking Book)』は、上記の1970年代の名作群の幕開けとなったもので、リリース翌年にあたる1973年のグラミー賞では三部門を受賞した。本作の特徴の一つは、豪華なゲスト陣にある。そのメンバーの一部を挙げると、ジェフ・ベック(ギター)、レイ・パーカーJr.(ギター)、デヴィッド・サンボーン(サックス)、デニス・ウィリアムス(ヴォーカル)・・・といった具合である。スティーヴィー自身は、ヴォーカルに加え、ムーグ・シンセサイザー、クラビネット、ハーモニカなどを演奏している。ゲストにヴォーカルを譲る部分などもあるが、基本的にはバンドという風な構成ではなく、あくまでスティーヴィー本人のイメージに沿ってゲストが演奏しているという印象だ。このようなゲスト陣の“配置の仕方”は、スティーヴィーが自らプロデュースにあたるようになって4作目だったということと関係があるのだろう。 『トーキング・ブック』所収の各曲は、とにかくどれもクオリティが高い。1980年代以降のスティーヴィーは大物という感じになってしまい、その分、どっしりと構えてはいるが、悪く言えばある種、保守的な雰囲気が徐々に出てくるようになった。しかし、この当時の彼はまさしく音楽の先鋭的な革新者であった。そのことは、モータウンを中心とする黒人ソウル系のミュージシャンの存在そのものを考えてみるとよい。一般に彼らは他人の曲をどう解釈して歌うかで勝負していた。当然、デビュー当時、1960年代のスティーヴィーもその流れにあるシンガーだった。しかし20歳代に入り、アーティストとしての目覚めを迎えたスティーヴィーは、ムーグのシンセサイザーを手にすると音楽的創造力を爆発させていった。その最初のまとまった成果が本盤という訳である。実際、スティーヴィーは、本作がリリースされる年、ローリング・ストーンズとツアーを行い、R&B系のアーティストは歌うだけで音楽を創造できないという、ロック側のファンの批判を見事に打ち崩していた。本作のヒットは、そうした努力の結果でもあった。 もう一つ、本盤の特徴を挙げるとするならば、この『トーキング・ブック』からは2曲の大ヒットシングルが生まれた。1.「サンシャイン(You Are The Sunshine Of My Life)」と6.「迷信(Superstition)」で、いずれも全米で第1位を記録している。80年代以降のスティーヴィー・ワンダー(特にヒット曲)の印象が強い人は、本盤の内容の濃さに最初はいくぶん躊躇するかもしれない。しかし、同じ“クラシック・ピリオド”の作品としては、まだ伝統的なシンガーの要素を残した曲も含まれているので、いきなり『インナーヴィジョンズ』や2枚組の『キー・オブ・ライフ』を聴くよりも入りやすい。その入りやすさの理由は、キーボードやリズムの部分では極めて革新的だけれども、ヴォーカルに関しては伝統的な要素を踏襲している点にあるのだろう。そんなわけで、70年代のスティーヴィー・ワンダーを未体験の人の入口としても素晴らしいアルバムだと思う。 [収録曲] 1. You Are The Sunshine Of My Life 2. Maybe Your Baby 3. You And I 4. Tuesday Heartbreak 5. You've Got It Bad Girl 6. Superstition 7. Big Brother 8. Blame It On The Sun 9. Lookin' For Another Pure Love 10. I Believe (When I Fall In Love It Will Be Forever) 1972年リリース。 【送料無料】トーキング・ブック/スティーヴィー・ワンダー[SHM-CD]【返品種別A】 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016年02月04日 21時56分50秒
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