刑事コロンボ 〜二枚のドガの絵〜
【刑事コロンボ 〜二枚のドガの絵〜】「名画の数々は、もともとあなたが始めたコレクションだったわけですね?」「でも手元に置くつもりはないのよ」「なぜですか?」「あら、みんな分かってないのね。亡くなった元夫だって、最後には絵のコレクションに嫌気がさしていたのよ。買いあさって秘蔵するより、私が彼に勧めたように、名画はみんなで共有すべきなのよ。それで学校や美術館に寄贈することにしたの」『コロンボ』に登場する愛すべき脇役の設定に、いつも共鳴してしまうのは私だけだろうか?「ああ、こう言うタイプいるなぁ」と、思わずクスッと笑みがこぼれてしまうような天然ボケタイプで、それでいて憎めないキャラ。例えば〜二枚のドガの絵〜に登場する被害者の元妻なのだが、この脇役が本当に憎めない。離婚の原因は元妻の浮気なのだが、性格はいたって穏やかで、人が良くて、おっとりしていて、しかもコケティッシュ。元妻は金もうけなんてまるで興味がなかったので、おそらく資産家の夫がガッチリと財布のヒモを握っていたに違いない。だから元妻が趣味で美術館へ夫を連れて行った時にも、夫は名画の良さを味わうでもなく、いかにその絵画が今後価値の上がるものなのか、投資目的で鑑賞するに過ぎなかったのであろう。(コレはあくまで私の想像だけど)実際、私の従姉もこんなタイプで、「あそこのラーメンは美味しいみたいよ」と、夫を評判のラーメン屋に連れて行ったところ、夫がそのラーメンにハマった。従姉は単に美味しいラーメンを夫にも食べてもらいたいだけだったのに、夫はそのラーメン店のオーナーとなってしまった。いわゆる株主というやつだ。きっと従姉の夫はそのラーメンをすすりながら「これは儲かる」と思ったのかもしれないーー〜二枚のドガの絵〜のストーリーはこうだ。美術評論家のデイル・キングストンは、資産家で独身の叔父が、自分に残すであろう多くの名画を、一刻も早く我が物にしたかった。だが、最近になって叔父が遺言を変更し、全ての名画を元妻に相続させると書き換えてしまった。デイルは叔父を殺害することを計画する。共犯者として恋人を利用し、さも強盗が押し入って室内を荒らしたかのように工作し、叔父を射殺してしまう。その後、共犯の恋人にまで手をかけ、事件の真相を知る者はいなくなった。しかしデイルの犯行は止まることを知らない。全ての罪を、叔父の元妻になすりつけるべく、叔父を殺害した銃を元妻の邸宅に続く庭園にわざと捨てたのである。被害者の元妻を演じるのはキム・ハンター。なんと、『欲望という名の電車』で、ヴィヴィアン・リーと姉妹役を果たしたオスカー女優である。このキム・ハンターの登場で、完全に犯人役がどうしようもない悪人で、キム・ハンター演ずるエドナ・マシューズ(被害者の元妻)がいかに人の良い奥様であるかが、役者のかもし出すオーラだけでハッキリするのだ。この明暗によってドラマは気持ちの良いほどスッキリとした終焉を迎えることとなる。やはり日本人にはこれぐらいの勧善懲悪がちょうど良い。日本人が最も愛すべき『刑事コロンボ』のスタイルが、ここに凝縮されているのだ。1971年放送【監督】ハイ・アヴァバック【キャスト】ピーター・フォーク、ロス・マーディン、キム・ハンター