テーマ:猫のいる生活(136026)
カテゴリ:★ちょっとした読み物
# 057
くつしたの生い立ちを語る上で、忘れることの出来ないエピソードがあります。 いま思えば、この黒いチビ猫との出会いがすべての始まりだったのかも知れません。 それは、私たちがくつしたと出会う 1年かさらに少し前のこと。 その夜、私とまるは散歩に出ました。 家を出て数分、大きな幹線道路沿いの歩道を 運河にかかる橋の近くまで来たときのことでした。 ふと何か小さな鳴き声が耳に入りました。 「まる、何か聞こえる。」 そう言って耳を澄ますと、行き交う車の音に混じってかすかに「ピャ~ピャ~」と、か細い声が聞こえます。 辺りを見回しましたが何も見当たりません。 さらに視界を広げると、道路の中央 分離帯の雑草の陰に子猫らしきものが動いています。 行く当てを見失った子猫が たまたま車の途切れたすきに道を渡り迷い込んだのでしょうが、 再び道路に出れば走ってきた車にはねられかねません。 一瞬どうしようかと思いました。 しかし躊躇している間にも子猫は動き回り、道に出てしまいそうです。 「とにかく、」 と、車の途切れた一瞬を狙って横断し、 おどろいて逃げようとする子猫を まるが すばやく捕まえ、そしてさらに道を渡って歩道に戻り、なんとか子猫を助け出しました。 とても小さい真っ黒な子猫でした。 やっと目が開いたばかりといった感じ、出しっぱなしの爪は始終 体を捕まえられているまるの手を引っかいていました。 母猫とはぐれて迷子になったのでしょうか。どこから来たのか見当もつきません。 「どうしよう…」 正直 困りました。 その辺に放したのでは、また道路へ出てしまいます。 かと言って、うちに連れて帰るわけには行きません。当時、うちはペット禁止のアパートでした。 親猫を探そうにも手がかりがありません。飼ってくれる人を探そうにも、もう明日の朝から二人とも仕事です。 どこか安全なところへ放してやるしかありませんでした。 考えた末、住んでいるアパートの目の前にある公園へ連れて行くことにしました。 そこは木が多く広い公園で、数匹の野良猫も住んでいます。 気のいいメス猫が子猫の面倒を見てくれるかもしれません。 「猫おばさん」なる 野良猫たちに毎日エサをやりに来るご婦人もいます。 ここなら食いはぐれることなく生きていけるかもしれません。 それに、もしかしたらこの子猫もここで生まれて、母猫もここにいるかもしれない。 そんな淡い期待を抱きながら、子猫を放す適当な場所を探して公園を歩きました。 奥の茂みに近いベンチのそばに子猫を下ろしました。 ふと見ると、少し離れたところに大きな白猫が座ってこちらを見ています。 「あ、シロさん。お願い。 この子の面倒を見てやって。」 そんな勝手な言い分を聞くわけでもありませんが、シロさんは興味ありげに子猫に近寄りました。 クンクン… 嗅ぎ慣れない匂いだったのか、シロさんは 「シャーッ!」と威嚇します。 それでも子猫は平気でシロさんに近寄って行きます。 しかしシロさんは後ずさりしながら さらにペシペシ!と 軽い攻撃までしています。 「あぁ、だめか…」 とあきらめかけていると、ようやくシロさんも相手が抵抗しない弱い存在だと分かったらしく、 あらためてそっと子猫に近付き そばに座りました。 なんか大丈夫そう…、 と少し安心した私とまるは、 「シロさん、その子 お願いします。 チビちゃん、ごめんね。 大きくなってね。」 そう言って その場を後にしました。 面倒を見てやれないのに中途半端に助けたこと、 そしてまた公園に野良猫を増やすこと、 色んな無責任さを頭では理解しつつ、しかしこれが私たちのしたことでした。 その後どうしているのか、その黒チビちゃんを見かけることはありませんでした。 「きっとシロさんを頼りにして大きくなっているよね。」 相変わらず勝手で楽観的な考えをしながら、時々思い出すことはあっても日々の忙しさで 普段はもう半ば忘れかけていました。 HOME お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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