カテゴリ:ミステリー
本日ご紹介するミステリーは、辻村深月さんの「
水底フェスタ」です。 ●あらすじ 村で行われるロックフェスタに出向いた高校生の湧谷広海は、会場で織場由貴美を見かける。村の人間だった彼女は東京で女優になっていた。 ●簡単な感想 村の古い体質から逃れようとする若者たちの物語です。 これまでの辻村さんの作品とは少し違うように思いました。 以下はネタバレを含む感想です。 読まれた方のみ反転してご覧ください。 作者が登場人物を善と悪にはっきり分けてしまっているように感じました。顕著なのが広海の母で、彼女を悪く書きすぎているように思えます。息子を心配する母を広海が疎ましがるのはしかたがないにしても、不倫をされた妻の立場で不倫相手の娘を家に置くことを強要されて、しかも相手の娘に殴られるとかあんまりではないかと思います。由貴美に嫌味を言うのは的外れですが、由貴美の母は嫌味を言われても仕方のない立場だったと思いますし、そもそもは不倫をした二人が悪いのが前提にあるはずなのに由貴美の中でそれがなかったことになっているのはどうなのだろうと。自分の母を悪く思いたくないのは人情でしょうし、現村長を敵に回したくない保身が働くのも無理はないですが、八つ当たりをしていい道理はないです。嫌味を言われて仲間外れにされて辛い思いをしたのは事実でしょうけど、織物を高く買い取ってくれたお金が生活の足しになったのも事実だろうと思いますし。 逆に、広海の父と由貴美は良く書かれすぎに思いました。父はいい人に見せてどうしようもない人でした、という話ではあると思いますが、不倫の話も同情を引くかのようですし、結局全く悪いと思っていなさそうです。不倫して家族を裏切っただけでも十分ひどいのに、さらに子供世代が自分たちの恋を再現してハッピーとか、何を考えているのかと思います。エゴを含むのではなく、エゴでしかないと思います。奥さんがどうでもいいなら別れればいいのに(当主の権限の強さを考えても奥さんに拒否権はないでしょうし)それもせずに苦しめて何がしたいのかわかりません。愛人を自殺に追い込んだのが奥さんであっても恨む権利はないです。本当に好きだったとか息子に愛人への愛を語るくらいなら生きているうちにさっさと離婚して再婚すれば良かっただけなのに、としか思えないです。広海は渡さないと言った意味も不明です。コロコロ意見が変わりすぎです。 由貴美の「大好き」は説得力がなかったです。京介さんと恋人関係だったんでしょうし、流されてるだけにしか思えないというか。「自分たちは恋をしていた」と言われても、由貴美は弟だからこそ、というのが前提にあったわけで、「弟じゃなかった。これは執着じゃなくて恋」は切り替えが早すぎです。ドラマチックにしようとしすぎて無理がある展開に思えました。 これまでの辻村さんなら由貴美とハッピーエンドオチだったのではないかと思うので、そうでなかったのは良かったです。人を殺しておいてハッピーエンドはさすが無理がありますが。広海が村に染まらず、戦うことに決めたのも良かったですし。由貴美の罪や村の不正を暴こうとも、正しく戦ってもらいたいです。 以上です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.10.09 13:27:12
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