|
カテゴリ:落雷疾風記
ハッと気がつくと、僕は見知らぬ所にいた。地面は真緑で、空は赤い。周りは紫の草原が広がり、少し先には黄色の池が。とにかく、今いる場所は普通ではなく、全ての物の色が矛盾していた。
僕はしばらく歩き、辺りを見渡すと、閑散(かんさん)とした雰囲気の打ち破るような存在感のある龍人がいた。服がなんとも言えぬ色合いで、ほとんど黒に近いが、よく見れば、赤っぽくも見えるし、青っぽくも見え、緑にも見える。多分、この服の色も、矛盾しているに違いない。 顔は人間ではなく、龍の顔にしか見えなかったが、体つきは丸っきり人間だ。髪の毛は馬の鬣(たてがみ)の様に生え、紫に近い。手には龍の様な爪があり、鋭く尖っている。首飾りも着けており、中心の小さい球体がキラキラと輝いている。 そしてまもなく、その龍人は僕に近づき、その場に跪(ひざまず)いた。 「ケルイバル様の命により、貴方様の近くに置いて頂ければと思います。私の名前は幻霊『ヴァルスィン(アフィリム科)』(龍人型♂)と申します。・・・・・・貴方様はケルイバル様が亡くなった理由をご存知でしょうか。」 僕は気付いた。あの時ケルイバルが僕に授けた精霊は、この精霊だったという事を。 「え・・・・・・そもそも、僕は精霊を持てないのでは?あの時、祖父が言っていました。お前にしか持つことのできない精霊を授けると。あれは嘘なのでしょうか?」 「では、申し上げます。貴方様が持てない精霊は、一般的に皆様が所持している『火霊』、『風霊』、『水霊』、『雷霊』、『自然霊』、『磁霊』、『守護霊』、『邪霊』、『呪霊』、『忍霊』、『刻霊』、『癒霊』、『盗霊』などの事でございます。しかし、それは貴方様が特別だからなのです。しかしながらこの私『幻霊』は、逆に一般の皆様が所持する事が出来ない精霊でございます。ケルイバル様は、私を一番初めに発見した方として、一生仕えさせて頂きました。しかしケルイバル様がこの世にいなくなった今まで、私はその間、身を潜めておりました。」 僕はその誠実さに圧倒されながら聞いていた。ヴァルスィンは一息入れて、更に続けた。 「しかし今、私の目の前には貴方様、いわゆるクローヴィス様がおられます。貴方様にお仕えする為、今この場を借りて、お話をさせてもらっております。」 ヴァルスィンは懐から指輪を出した。そして僕の手を取ると、その指輪を左手の中指にはめた。 「その中には特殊な精霊石が埋め込んであります。それさえあれば、私は貴方様をできる限り護衛いたします。ではこれで・・・・・・。」 ヴァルスィンは矛盾している世界の中を駆け巡り、身体の色を変えながら消え去った。しかしその後、僕はいきなり身体の力がスッと抜け、その場に倒れてしまった。身体が重く感じるにも拘らず、起き上りたいのはやまやまなのだが、そんな気分もやがては薄れ、眼も重くなり、まるで死んでしまう様な気がした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.05.23 21:28:07
コメント(0) | コメントを書く
[落雷疾風記] カテゴリの最新記事
|