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外国が水中活動をしている疑いがあるとして、スウェーデン軍はバルト海で大規模な作戦を始めたという。1981年にソ連の潜水艦が座礁する事故があり、これを思い出す人もいるようだが、1990年代の前半の場合、スウェーデン政府はミンククジラをロシアの潜水艦だと信じていたことが後に判明している。
スウェーデンへの影響という点では、1982年の出来事が大きい。この年の10月8日、アメリカとは一線を画すという姿勢を貫いていたオルオフ・パルメが首相として返り咲くのだが、その1週間前、潜水艦騒動が始まる。 当時、パルメはニカラグアの革命政権を明確に支持するなど、アメリカにとって好ましくない人物だった。このパルメは1986年、妻と映画を見終わって家に向かう途中、銃撃され、死亡している。 1979年からアメリカはソ連との戦争に向かって動き始めている。7月にはエルサレムでイスラエルとアメリカの情報関係者が集まり、「国際テロリズム」に関する会議を開いたのだが、そこで「テロの黒幕」はソ連だというキャンペーンを始めることになる。 アメリカからの出席者は、ジョージ・H・W・ブッシュ元CIA長官(後の大統領)、レイ・クライン元CIA副長官、CIAの対ソ強硬派「Bチーム」を率いていたネオコン(親イスラエル派)のリチャード・パイプス、そして「ジャーナリスト」のアーノウド・ド・ボルクグラーブとクレア・スターリングらがいた。会議後、日本ではスターリングらを情報活動の専門家として扱っている。 その年の12月に開かれたNATOの理事会では1983年からアメリカのパーシングIIと巡航ミサイルをNATO5カ国に順次配備すると決定した。そうした流れに反発する西側の人びとは反核運動を開始、1981年10月に西ドイツで開かれた反核集会には約30万人が集まっている。 その前年、元ビートルズのジョン・レノンがトッド・ラングレンのファンでキリスト教原理主義者から大きな影響を受けたいたといわれるマーク・チャップマンに射殺されているが、もしレノンが生きていたなら運動に参加した可能性は高く、運動をさらに盛り上げていたことだろう。こうした情勢の中、1980年のスウェーデンではソ連を脅威だと考える人は全体の5〜10%にすぎなかった。 ところが、1982年に国籍不明の潜水艦がスウェーデン領海へ侵入、大捕物が展開されると状況は一変、ソ連を脅威だと考える人が1983年には40%に上昇、軍事予算の増額に賛成する人の比率は1970年代の15〜20%が約50%に増えている。 潜水艦の領海侵入騒動でアメリカの好戦派や軍需産業は大きな利益を得たが、ソ連は評判を落とし、大きな損失を被ることになった。本当にソ連の潜水艦がスウェーデンの領海内に侵入したのだとすると、稀に見る愚かな作戦だったと言えるだろうが、ノルウェーの研究者、オラ・ツナンデルはアメリカとイギリスがスウェーデン国民のソ連感情を悪化させるために仕組んだと推測している。 騒動の直前、9月にNATO軍はデンマークやノルウェーへの上陸演習「ノーザン・ウェディング」を、バルト海では別の演習「USバルトップス」を行い、さらに対潜水艦戦訓練「ノットバーブ」が実施されている。この対潜水艦戦の訓練こそが潜水艦追跡劇の真相ではないかと考える人もいる。 ノルウェーの情報将校は問題の潜水艦はソ連のものではないと断言、西側の潜水艦だとし、ソ連のウィスキー型潜水艦だとする説も明確に否定し、アメリカやスウェーデンの当局者と真っ向から対立している。(Ola Tunander, “The Secret War Against Sweden”, 2004) 1983年の春、アメリカ海軍は千島列島エトロフ島の沖に3空母、つまりエンタープライズ、ミッドウェー、コーラル・シーを中心とする機動部隊群を終結させ、大規模な艦隊演習「フリーテックス83」を実施している。志発島の上空に侵入して対地攻撃訓練を繰り返し、米ソ両軍は一触即発の状態になったと言われている。(田中賀朗著『大韓航空007便事件の真相』三一書房、1997年) この年の8月31日から9月1日にかけて大韓航空007便がアラスカの「緩衝空域」と「飛行禁止空域」を横切り、ソ連領空を侵犯、サハリン沖で撃墜されたと見られている。その年の11月にはNATO軍が軍事演習「エイブル・アーチャー83」を計画、核攻撃のシミュレーションも行われることになっていた。これをソ連の情報機関KGBは「偽装演習」だと疑い、全面核戦争を仕掛けてくるのではないかと警戒体制に入っている。 ところで、スウェーデンでは9月14日の総選挙で社会民主労働党が第1党になり、10月2日に同党のステファン・ロベーン党首が首相に就任することを議会が承認した。原発依存を見直す可能性もあるが、それ以上に注目されているのがパレスチナを国家として承認する方針を打ち出していること。イスラエル政府は激しく反発している。これまでスウェーデンはWikiLeaksに対するアメリカ政府の攻撃を支援してきたが、この方針も変化するかもしれない。そうした中での騒動だ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.10.18 21:11:17
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