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テーマ:韓国!(16970)
カテゴリ:映画
光州仁和学校(ろう学校)で2000年から教職員4人が5年間にわたり
聴覚障害者の女生徒らに性的暴行や虐待を加えた事件。 その事件を描いたコン・ジヨンの小説「トガニ」は 2011年映画『トガニ 幼き瞳の告発 도가니 Silenced』となって公開、 460万人を動員し韓国内外で注目を集めました。 今回 原作者コン・ジヨン/孔枝泳氏が来日して開催された試写会及びシンポジウムに参加して来ました。 映画は 登場する人たちの悔しさ無念さが手に取るように伝わり泣きました。 これから人生の幸せや喜びを感じる機会のないまま死んでいった子どもたちの魂が痛ましく感じられ...。 映画がきっかけとなり 加害者に重大な罪を問わなかった裁判所(現行法)への非難の声が高まった結果 地元警察が特別捜査チームを設置し 事件に関する再捜査に着手した、と聞いて少し、ほんの少しだけ気が晴れました。 通称「トガニ法」と呼ばれる、 未成年者への性的暴力・虐待については時効を設けない、 という法律への改正も映画がきっかけで成立。 映画を観て 子どもたちの悔しさをそのままにはしたくない、とつよく感じていただけに 社会を動かした作品の力、社会にコミットする小説と映画の姿に感慨深かったです。 日本社会と比べると、韓国社会のダイレクトさとダイナミックさを象徴するような出来事。 ラブコメの名手コン・ユとチョン・ユミが ほぼ初めて出演した社会派作品で見せる、 これまでとは異なる演技、表情の演技も見どころ。 今作でコン・ユは子どもたちに寄り添い闘う姿を 細やかな表情の演技で表現しています。 ひとりの父親としても 不安定な被雇用者としても 自分の生活、自分の家族の問題を抱えながら 虐待に遭っている子どもたちのために誠実に苦悩するコン・ユの姿に共感します。 生活のことも考えて、 娘の治療費のことも考えて 傍観者になってしまうぎりぎりのところで苦悩しながら踏みとどまり 子どもの側につくことができるかどうか、 最後まで全うすることができるかどうか... 苦悩する等身大の姿にハラハラしながら その良心と決断に深く心を揺さぶられました。 最高裁判所(法院)の前で 裁判所の判決に抗議する人たちに放水車で水をかける権力の側。 そのシーンの映像は 黒い喪服のひとびとと 白い水と 黒い機動隊の色... 白と黒の世界が対比しながら心に深い悲しみの余韻を残して印象的でした。 ファン・ドンヒョク監督作品。 色彩だけでなく、音にも注目。 チョ・ソンモの歌「カシナム/棘のある木」が聴こえるシーンでは 2004年にイ・チャンドン監督作『オアシス』を初めて観た時のことを思い出しました。 脳性麻痺のコンジュが言葉にならない、声にならない声で伝えようとしていたのと同じように、 そしてそれを聞き取ろうとしていたジョンドゥと同じように... 聴覚障碍者と私たちの間には 言葉にならない言葉、声にならない声が壁のように横たわっていると考え、 彼らが聴こえるかもしれない、ということは見逃しがちだけれど それは間違っている、と。 「カシナム」が聴こえることは奇跡のようにも思えるけれど それはただの奇跡ではなく 私たちの先入観や偏見をも、美しくふるえるようなメロディと歌声でゆさぶり覆して 心に残るシーンでした。 後半はスクリーンいっぱいに映るコン・ユの顔に吹き出物を発見して ラブコメの名手で王子キャラクターなイケメン俳優のイメージを裏切る、 苦悩する等身大の父親役のリアルさがある...と感心してしまいました。 私たちも苦悩やストレスで顔に吹き出物が出来たりしますから... そして、 『殺人の追憶』でスクリーンいっぱいに映る ソン・ガンホの顔、その演出も思い出します。 ポン・ジュノ監督によると 映画館で『殺人の追憶』をもしかしたら観ているかもしれない、 真犯人を見つめ返すような演出だったそうですが...。 『トガニ』と『殺人の追憶』は作品も演出の意図ももちろん異なりますが、 大写しになった俳優の顔、表出しているものは共振しているような思いもします。 スクリーンに大きく映り近づく俳優の顔を見ていると、 その吹き出物のディテールまでまじまじと見ると 鏡に自分の顔を映しているような気持ちにもなります。 そして俳優の顔の背後に 苦悩と悔しさと哀しみに顔をゆがめてスクリーンに登場し重なっていく 人間の顔、多くの貌をも見い出して 忘れえない時、シーンとなります。 それら多くの子どもたちの顔、人間の貌が重なりあって スクリーンを越えて観客をつなぎ、 社会を世界を構築しているようにも見えます。 現実とのInteraction、インタラクティブな振動が普遍的な世界を立ち上らせます。 映画製作のきっかけは 兵役で入隊中の最後の休暇の時 原作を読んでいたコン・ユ自身が コン・ジヨンに映画化を持ちかけたそう。 そんなコン・ユの働きかけと情熱、 そして映画がきっかけで再捜査や法改正が始まったことを思うと 映画の主人公とコン・ユの実際の行動が重なって、オーヴァーラップして見えます。 コン・ユの作品で最近観たのは 『あなたの初恋探します 』。 やっぱりラブコメの名手です。(*^-^*) チョン・ユミは 『もう少し近くに/Come, Closer』 や 『私のチンピラのような恋人』 で愛らしいコメディエンヌぶりを発揮していました。 今作では対照的に情熱的にシリアスに、きりっと演じています。 その繊細で透明感ある表情の演技からは 『ヘファ、ドン/Re-encounter』のヒロインの演技もちょっと思い出します。 ![]() 左からジャーナリスト小宮純一氏、原作者コン・ジヨン氏。 霧がすべてを覆い隠そうとする現実。 その霧を払いのけようと闘う人々。 舞台を架空の都市 霧津/ムジンに設定したことで 同様の問題はどこかほかの町にもあって 水面下にあって まだまだ多くの子どもたちや 障害を持つ人たちが被害を受けている可能性や 現実世界を示唆し、普遍化して見せている、とも感じます。 シンポジウムでは 日本ではもっと古く80年代から同様の事件があり そのほとんどが未解決、と小宮純一氏から聞きました。 じっさいの事件は光州市で起こったのだけれど... 光州は韓国民主化の過程で多くの市民が殺されてしまった都市。 韓国現代史上、重く複雑な意味を放つ市、市の名であるため 光州を小説でも映画でも実名でそのまま持って来てしまうと 事件とは無関係だった光州市民に失礼な上に、 本題からずれてしまう、焦点が合わなくなる可能性もあったので ムジンに設定した、とコン・ジヨン氏。 そのムジンは 実はコン・ジヨン氏が作家修業時代に大好きだった作家 キム・スンオクの「霧津紀行」へのオマージュをこめて 今回使ったそうです。 子どもたちの置かれた状況から 梁石日原作、阪本順治監督『闇の子供たち』も思い出しますが... なんといっても巨匠ケン・ローチの子息ジム・ローチ監督の初長編作品 『オレンジと太陽/Oranges and Sunhine』 も想起します。 児童移民に加え、 (キリスト教の)孤児院で 子どもたちが性的暴行や虐待を受けていた事実を明らかにした衝撃的な作品。 『トガニ』のように 子どもたち(今は心に深い傷を負ったまま成人している)のために奮闘する女性が描かれています。 霧津/ムジンと言えば 元祖イケメン俳優、申星一主演のメロドラマ 『霧』の舞台。 映画の中の海岸線や霧の風景もちょっと思い出します。 コン・ジヨンはカン・ドンウォン主演『私たちの幸せな時間』や カン・スヨン主演で映画化された『サイの角のようにひとりで行け』の原作、 チェ・ジンシル主演で映画化された『森の中の部屋』の脚本も。 2011年の韓国映画界は女性作家の原作による映画、 『トガニ』や 『ワンドゥギ』がヒットしていました。 映画の前の 小説の力、言葉の力、にも思い至ります。 to be continued...!? buzz KOREA Click... にほんブログ村 韓国映画 にほんブログ村 映画 にほんブログ村 映画評論・レビュー にほんブログ村 韓国情報 にほんブログ村 K-POP にほんブログ村 Copyright 2003-2025 Dalnara, confuoco. All rights reserved. 本ブログ、サイトの全部或いは一部を引用、言及する際は 著作権法に基づき出典(ブログ名とURL)を明記してください。 無断で本ブログ、サイトの全部あるいは一部、 表現や 情報、意見、 解釈、考察、解説 ロジックや発想(アイデア)・ 視点(着眼点)、 写真・画像等も コピー・利用・流用・盗用することは禁止します。 剽窃厳禁。 悪質なキュレーション Curation 型剽窃、 つまみ食い剽窃もお断り。 複製のみならず、 ベース下敷きにし、語尾や文体などを変えた剽窃、 リライト、 切り刻んで翻案等も著作権侵害です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Jan 21, 2024 03:13:24 PM
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