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2004.12.26
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ゲノム解読の国際競争で、もう一人最先端のアイデアを持っていた学者が、伏見譲(埼玉大学工学部教授)だった。伏見は、東大の生物物理研究室時代、和田昭允の助手をしていた。1981年に、和田から誘われて科学技術庁のプロジェクトに参加した。

ゲノム解読のキーになるのは、どれだけ速く正確にDNAを読み取る(シークエンシング sequencing)かと言うことだが、伏見のアイデアは、蛍光色素を使ってレーザー光線で識別する方法だった。

ゲノムはDNAの集まったもので、DNAは通常は2本が螺旋状にからまって存在する。その片割れを1本のリボンとたとえると、リボンの上にA、T、G、Cという4文字がいろんな順序で30億個並んでいる。例えば、ATGTGCATAAGC...という具合に延々と並んでいるわけだ。

ATGCの連鎖の一部が遺伝情報を含んでいて、それが遺伝子と呼ばれる。ATGCの連鎖のなかで、3文字が一つのコードになり、一つのコードが一種類のアミノ酸に解読され、アミノ酸が集まっていろんな種類の蛋白質を構成し、そして蛋白質が人体を作る。遺伝子とはDNAの中の意味のある連鎖の部分だ。

ゲノム・シークエンシング(ATGC文字列を読み取ること)で当時使われていた方法は、マクサム・ギルバート法とサンガー法と言うやり方で、これは殆ど職人芸ともいえる、非常に時間のかかるそして信頼性が「職人」の腕に依存する方法だった。

例えば、フレッド・サンガー(Fred Sanger)はサンガー法を使って、5,386文字からなるウイルスの遺伝子を読み取ったののだが、何と13年かかった(1977年)。もしこの方法でヒトゲノムを読み取るとすると、100,000年もかかってしまう。

伏見は、1981年2月28日のノートに、蛍光色素を使ったDNAシークエンサーのアイデアを綴っている。その後1982年10月に、日本生物物理学会で「DNAの蛍光標識と実時間蛍光検出ゲル電気泳動法の開発」というテーマで発表をするまでに漕ぎ着けた。このアイデアがブレークスルーだと認識していたにも拘らず、この時、伏見は論文にして「ネイチャー」あるいは「サイエンス」に投稿することをしなかった。これがそもそものミスだった。

もう一つ、致命的なミスは、「蛍光標識によるDNAの分析方法」の特許を取得しなかったことだ。出願はしたのだが、お上から「国から研究資金をもらっておいて、特許はないんじゃないんですか」という意味のコメントを受け、当時としては前例がないことを鑑み、恩師和田への影響を考慮して、伏見は特許申請を取り下げたのだった。特許出願所提出が1983年4月9日、科学技術庁からの介入は1984年1月だった。

当時の文部省の通達に拠れば、科技庁の介入はもっともである。しかし、この考え方は1998年の「大学等技術移転促進法」によって改められ、国からもらった研究資金で発明されたものでも、特許権は大学に帰属する、ということになっている。アメリカが1980年に制定したプロパテントの政策(バイ・ドール法 the Bayh-Dole Act)に準じたのである。およそ20年遅れて。

カリフォルニア工科大学(カルテク)のリロイ・フッド(Leroy Hood)研究室のハンカピラー兄弟(Mike and Tim Hunkapiller)がApplied Biosystems(ABI)と共同してシークエンサー技術の特許を出願したのが1984年1月だ。伏見の特許出願日が1983年4月だったから、伏見のアイデアがカルテクより1年近く先を走っていた。

ハンカピラーとABIは、この後1986年にシークエンサーのプロトタイプを完成した。やがてABIは、現在の世界のシークエンサー市場の八割を占めるという、PRIZMという機械を開発するのだが、伏見譲に続いてもう一人の日本人が、この開発の途上で苦渋を味わうことになる。(この稿続く)

(関連事項) 
1. カルテクのリロイ・フッドの研究室にはヘンリー・フアン(Henry Huang)という香港からの留学生が1977年から1982年までいたのだが、20数年経ってから、シークエンサーのアイデアは自分のものである、特許には自分の名前も入れられるべきだ、という訴訟を起した。彼の言い分は結局裁判官には認めてもらえなかった。
2. ABIが1984年1月に出願した特許は、訂正、再提出などあって最終的には1990年10月の出願になっている。

参考
岸宣仁 「ゲノム敗北」(2004年 ダイヤモンド社)
The Genome War (James Shreeve, 2004)
http://www.biospace.com/ccis/news_story.cfm?StoryID=15259720&full=1
http://plaza.rakuten.co.jp/cozycoach/6006





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最終更新日  2004.12.27 16:00:21
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