|
テーマ:お勧めの本(7230)
カテゴリ:カテゴリ未分類
【内容】 1906年の同じ日に全く違う境遇で生まれた、名家ケイン一族の息子・ウィリアムとポーランドの猟師一家の息子・ヴワデク(後に猟師一家の主人・ロスノフスキ男爵家に引き取られる。渡米後、アベルと改名。)の二人の男の生涯を綴った作品。 一族が経営する銀行で着実にキャリアアップを果たし頭取に登りつめるケインと対照的に、アベルは第一次世界大戦に運命を左右されながら過酷な状況を乗り越え、ニューヨークの「プラザ・ホテル」のウェイターからホテルチェーン「バロン・グループ」の創業オーナーにまで成り上がる。 『ケインとアベル』は、アベルの娘フロレンティナがアメリカ初の女性大統領になるまでを描いた『ロスノフスキ家の娘』、フロレンティナが巻き込まれた大統領暗殺未遂事件を描いた『大統領に知らせますか?』の三部作の一作。いずれも壮大なサクセス・ストーリーである。 【感想】 アーチャーさんの最も代表的作品ですね。初めて読んだ時、いろんな意味で衝撃を受けました。久々に読んで感じたのが、いま読んでもまったく古くなくやっぱり名作だということです。主人公の憎しみ合う二人がメインという年代記もの傑作。アメリカン・ドリーム&サクセス・ストーリー作品の名手と呼ばれる由縁ですね。 主人公のひとりアベルは、どん底人生からのスタートです。 貧困や、無知、戦争や、弱者の立場、などなどが、どれほどの過酷さを人生にもたらすか、それを体現しているのが移民からホテル王にのし上がるアベルです。アーチャーさんの作品で、”アベル”的人物がしばしば登場するのがこうした苦労人で、年代記物語の最大の骨格でしょう。 もうひとりの主人公のケインは、非の打ち所のない血筋と富に保証された上流人を体現してます。こんな恵まれたスタートを切る人に、アベルほどの困難はそもそも無縁でしょうが、。要するにアベルとの出会いそのものが、ケインの人生の陰りということ。ケインのあしながおじさん的な面が報われないのが、最大の不幸でしょう。 ところで、 主人公二人が、出産を機に母を失なうという共通点に着目しました。むかしは、かなりの確率で女性は、出産時に亡くなったのだろうと察せられます。 アベルの母の亡くなり方は、自分の身に置き換えると、想像しただけでゾッとします。 現代は、少なくとも清潔な病院の出産台で、病院のスタッフに助けられて産むことができ、苦痛は伴いますが、少なくとも安心して、おおむね祝福の中で、思いっきり力むことが出来ます。でも、アベルの母は野外でひとりぼっち。メイドだったのか、ジプシーだったのか、。とにかくこの時代、私生児を生むことは大罪だったことでしょうし、社会的にも経済的にも絶望的状況下の妊娠出産だったことが察せられます。 はるか昔に見た『野麦峠』で、ものすごく若い頃の大竹しのぶさんが、雇い主の息子の子を、野ッぱらでひとりぼっちで産むというラストに、ショックを受けたことを思い出しました。 一方、ケインの母は、重度の?妊娠中毒症になる体質のようです。本当はケイン以後の子は望めない筈だったのに、夫の死後、ケインが寄宿学校に入学すると、寂しさから再婚し身籠り、死産して亡くなってしまいます。財産家の女性もまた、場合によっては不幸なことになる。 ケインは、母を守れなかったことで自分の無力さにかなり辛い思いをしたことでしょう。 野外での孤独な出産死も悲惨ですし、バラの花に埋め尽くされた病室でも、手を尽くしようがないこともあったようです。 二人の全く異なるタイプの主人公。 二人の幸福と不幸の度合いは、とんとんの互角だったでしょうか。 どちらも子供が去ったことの痛手は深かったようです。 そもそも、何故、自分は走り続けてきたのだろう。 年をとり、人生の終末が見えたとき、自分の人生を振り返った時、死が迎えに来る時。 「いい人生だった」と思いながら旅立つことができたでしょうか。 ジェフリー・アーチャー 本感想
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年10月18日 23時56分59秒
|
|