|
カテゴリ:小説
第1話はこちら
第2話はこちら 第3話はこちら Red Vapors #51 ラスト・イグザミネーション(4) 04 森林に不時着した途端――。 「ギャアアアアアアア!」 激しく舞い上がる砂煙とともに、エスペランサは激しくいなないた。 「くっ……!」 アキラはその衝撃をこらえるのに精一杯で、当初は周囲を見渡すゆとりすらなかった。 ドラゴンは何度も身体をあちこちぶつけ、やがて、ようやく停止して自分が助かったことを知った。 どこか森林のような場所だった。 地図を表示させてみると、戦闘空域の東の外れの方に不時着したらしい。南北どちらかにあと少しズレていたら、海か市街地のどちらかに突っ込んでいたところだった。 「アキラ! アキラ無事か!?」 コウの声がする。 「俺は何とかな。おまえも無茶は――」 「おい! 返事くらいしろアホ!」 「…………」 どこがどう壊れたのか、こちらの声は届いてないらしい。 「くっ……!」 アキラは歯噛みした。 再離陸できればいいのだが、エスペランサは翼を痙攣させ、ぐったりしている。どこかに引っかけたように右翼はズタボロで、血まみれである。ドラゴンは不時着するとき、本能的にパイロットの人命を優先するので、自分のことまでかまう暇はなかったのだろう。 とはいえ彼自身が急に暴れたために墜落したことを思えば、それで助かったのは幸運だったといえるのだが。 「…………」 首筋を撫でてやる。 「せ、先輩が……!」 「慌てるな! 一時撤退だ! 編成し直す!」 「武山警部そりゃないっすよ! 撤退したら奴に逃げられますって!」 「おまえはともかく、他は初めての空中戦なんだぞ!」 「じゃあ俺1人で行きますよ!」 「馬鹿者!」 「あの、コウさんはまだ病み上がりなんですから、無茶は……」 「メグミさん! 俺1人でもやらせてください!」 コウは戦いを続行すべく、武山警部やメグミともめている。 こうなったのも自分が落ちたせいだ。 今の特殊動物課は、アキラ1人でがヤラレただけで隊全体が総崩れになる。そんな人事配置こそ一番の問題なのだ。 とはいえ、隊員のほとんどは警察学校で空中戦訓練を受けていないため、仕方ないことなのだが。 アキラは、この事態をどうフォローするかを考えた。 後輩をいったん下がらせ、余ったドラゴンで自分が出撃するか……? いや、今回の作戦はそもそも、ドラゴンを敵の本部へ突入させることが主目的なのである。そうしようとして妨害部隊と空中戦しているだけで、戦うために再離陸するのは本末転倒だ。 ――とにかく連絡を取らなきゃ……! 足が地につかないほどの不安と焦りにさいなまれながらも、アキラは市街地の方へ、草藪を乗り越えて歩きだした。おそらく10分ほどで、人家のある場所にはたどりつけるだろう。避難命令が出てるはずなので、てんやわんやだろうが。 と――。 『ドスン! ……ばさあああああああっ!』 突然、上から何かが落ちてきた! 枯れ葉が舞い、アキラは顔をふさぐ。 「なんだ!?」 その塊はこちらの鼻先数センチの場所を通った。 一瞬、また上からドラゴンが墜落して来たのかと思った。実際、いつそうなってもおかしくない状況なのだ。 「おまえ、あたし達をどうする気!?」 だがそうではなかったようだ。 少なくとも敵であるのは一目瞭然だったが。 それは翼のない陸戦用ドラゴンで、ルプーを再起不能にした奴によく似ていた。そしてその背にはまたがるライダーもまた同じ。《双子の優菜》そっくりの少女である。 「君は……!」 だが当の優菜は留置所内で死亡したはずなので、そのクローンといったところだろう。 彼女はちらりとこちらの背後に目をやり、アキラのドラゴンがすでに戦闘不能なのを見て取った。 「悪いけど、オタル様が逃げるのに邪魔なの。死んで」 「くっ……!」 どうやら戦う気満々だ。 対しこちらに武器はなし。トリモチ・マシンガンはエスペランサの身体の下に埋もれている。 おそらく助けもあてにできない。周囲1キロ以内に人はいないだろう。 「ドルチェロッソ! やっちゃいな!」 少女がドラゴンに命じると、ドラゴンが踏み込む! 『ダンッ!』 ほんの数歩先にいるこちらへ向かい、突っ込んでくる。 「うわっ!」 アキラはとにかく逃げ出した。横に避ける。 地面を蹴った靴の、そのかかとの先を、ドラゴンの歯がかすめたのをたしかに感じた。 ――どこへ走る……!? 殺される恐怖で冷静さを失いそうになる自分をいさめ、どうにか逃げることに意識を集中させる。 『ガキン!』 金属同士がぶつかったような、歯を噛み合わせる音。それが背中のすぐ後ろで聞こえた! 最近の軍用ドラゴンの歯は、セラミックに似た成分を含むので、本当に何でも噛み砕く。 最近の技術革新という奴は全く、何もかも『やりすぎ』だ! 「ふんっ!」 ドラゴンのその鼻息だけで、アキラは背にかなりの風圧を受けた。枯れ葉の堆積した地面でなら、転ぶには充分な風だった。 ちょっとした坂道だったため身体がほぼ一回転し、したたか頭を打つ。 『どすん!』 「くっ!」 痛みをこらえて身を起こすと、立ちくらみのようなブラックアウトに見舞われた。 瞬間的に目が見えなくなるが、それでもカンだけで足を動かそうとした。 が――。 『ごっ……!』 勢いで今度は大木に全身をぶつけ、再び転ぶ。 「なにやってんの?」 何度も頭をぶつけるこちらを見て、彼女は苦笑した。 「うるせぇ! ピエロで結構だ!」 見る。 ほんの数センチ先にドラゴンの顔があり、すでに口を開けている。多分、奴がその気になれば立ち上がる暇すらないだろう。 「さようならピエロ。あたし達の邪魔しなきゃ、死なずにすんだのに」 それが彼女の最後通告だった。 「そういう意味じゃ俺達は同業さ。死ぬのが怖い奴にゃ務まらん」 アキラは、恐怖で震える身体を無理に圧え込んだ。 「そうかもね。でも、だったら問題ないでしょ。バイバイ」 彼女の落ち着いた声と、 『ドン……!』 爆音。 つづく [Red Vapors]official page こちらも絶好調で公開中です! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年05月10日 20時59分07秒
コメント(0) | コメントを書く
[小説] カテゴリの最新記事
|