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優樹瞳夢の小説連載部屋

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2008年04月26日
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カテゴリ:小説
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Red Vapors #51 ラスト・イグザミネーション(4)

  04

 森林に不時着した途端――。
「ギャアアアアアアア!」
 激しく舞い上がる砂煙とともに、エスペランサは激しくいなないた。
「くっ……!」
 アキラはその衝撃をこらえるのに精一杯で、当初は周囲を見渡すゆとりすらなかった。
 ドラゴンは何度も身体をあちこちぶつけ、やがて、ようやく停止して自分が助かったことを知った。

 どこか森林のような場所だった。
 地図を表示させてみると、戦闘空域の東の外れの方に不時着したらしい。南北どちらかにあと少しズレていたら、海か市街地のどちらかに突っ込んでいたところだった。
「アキラ! アキラ無事か!?」
 コウの声がする。
「俺は何とかな。おまえも無茶は――」
「おい! 返事くらいしろアホ!」
「…………」
 どこがどう壊れたのか、こちらの声は届いてないらしい。
「くっ……!」
 アキラは歯噛みした。

 再離陸できればいいのだが、エスペランサは翼を痙攣させ、ぐったりしている。どこかに引っかけたように右翼はズタボロで、血まみれである。ドラゴンは不時着するとき、本能的にパイロットの人命を優先するので、自分のことまでかまう暇はなかったのだろう。
 とはいえ彼自身が急に暴れたために墜落したことを思えば、それで助かったのは幸運だったといえるのだが。
「…………」
 首筋を撫でてやる。

「せ、先輩が……!」
「慌てるな! 一時撤退だ! 編成し直す!」
「武山警部そりゃないっすよ! 撤退したら奴に逃げられますって!」
「おまえはともかく、他は初めての空中戦なんだぞ!」
「じゃあ俺1人で行きますよ!」
「馬鹿者!」
「あの、コウさんはまだ病み上がりなんですから、無茶は……」
「メグミさん! 俺1人でもやらせてください!」
 コウは戦いを続行すべく、武山警部やメグミともめている。
 こうなったのも自分が落ちたせいだ。

 今の特殊動物課は、アキラ1人でがヤラレただけで隊全体が総崩れになる。そんな人事配置こそ一番の問題なのだ。
 とはいえ、隊員のほとんどは警察学校で空中戦訓練を受けていないため、仕方ないことなのだが。

 アキラは、この事態をどうフォローするかを考えた。
 後輩をいったん下がらせ、余ったドラゴンで自分が出撃するか……?
 いや、今回の作戦はそもそも、ドラゴンを敵の本部へ突入させることが主目的なのである。そうしようとして妨害部隊と空中戦しているだけで、戦うために再離陸するのは本末転倒だ。
 ――とにかく連絡を取らなきゃ……!
 足が地につかないほどの不安と焦りにさいなまれながらも、アキラは市街地の方へ、草藪を乗り越えて歩きだした。おそらく10分ほどで、人家のある場所にはたどりつけるだろう。避難命令が出てるはずなので、てんやわんやだろうが。

 と――。
『ドスン! ……ばさあああああああっ!』
 突然、上から何かが落ちてきた!
 枯れ葉が舞い、アキラは顔をふさぐ。
「なんだ!?」
 その塊はこちらの鼻先数センチの場所を通った。

 一瞬、また上からドラゴンが墜落して来たのかと思った。実際、いつそうなってもおかしくない状況なのだ。
「おまえ、あたし達をどうする気!?」
 だがそうではなかったようだ。
 少なくとも敵であるのは一目瞭然だったが。

 それは翼のない陸戦用ドラゴンで、ルプーを再起不能にした奴によく似ていた。そしてその背にはまたがるライダーもまた同じ。《双子の優菜》そっくりの少女である。
「君は……!」
 だが当の優菜は留置所内で死亡したはずなので、そのクローンといったところだろう。

 彼女はちらりとこちらの背後に目をやり、アキラのドラゴンがすでに戦闘不能なのを見て取った。
「悪いけど、オタル様が逃げるのに邪魔なの。死んで」
「くっ……!」
 どうやら戦う気満々だ。

 対しこちらに武器はなし。トリモチ・マシンガンはエスペランサの身体の下に埋もれている。
 おそらく助けもあてにできない。周囲1キロ以内に人はいないだろう。

「ドルチェロッソ! やっちゃいな!」
 少女がドラゴンに命じると、ドラゴンが踏み込む!
『ダンッ!』
 ほんの数歩先にいるこちらへ向かい、突っ込んでくる。
「うわっ!」
 アキラはとにかく逃げ出した。横に避ける。
 地面を蹴った靴の、そのかかとの先を、ドラゴンの歯がかすめたのをたしかに感じた。

 ――どこへ走る……!?
 殺される恐怖で冷静さを失いそうになる自分をいさめ、どうにか逃げることに意識を集中させる。
『ガキン!』
 金属同士がぶつかったような、歯を噛み合わせる音。それが背中のすぐ後ろで聞こえた! 最近の軍用ドラゴンの歯は、セラミックに似た成分を含むので、本当に何でも噛み砕く。
 最近の技術革新という奴は全く、何もかも『やりすぎ』だ!

「ふんっ!」
 ドラゴンのその鼻息だけで、アキラは背にかなりの風圧を受けた。枯れ葉の堆積した地面でなら、転ぶには充分な風だった。
 ちょっとした坂道だったため身体がほぼ一回転し、したたか頭を打つ。
『どすん!』

「くっ!」
 痛みをこらえて身を起こすと、立ちくらみのようなブラックアウトに見舞われた。
 瞬間的に目が見えなくなるが、それでもカンだけで足を動かそうとした。
 が――。
『ごっ……!』
 勢いで今度は大木に全身をぶつけ、再び転ぶ。

「なにやってんの?」
 何度も頭をぶつけるこちらを見て、彼女は苦笑した。
「うるせぇ! ピエロで結構だ!」
 見る。
 ほんの数センチ先にドラゴンの顔があり、すでに口を開けている。多分、奴がその気になれば立ち上がる暇すらないだろう。

「さようならピエロ。あたし達の邪魔しなきゃ、死なずにすんだのに」
 それが彼女の最後通告だった。
「そういう意味じゃ俺達は同業さ。死ぬのが怖い奴にゃ務まらん」
 アキラは、恐怖で震える身体を無理に圧え込んだ。

「そうかもね。でも、だったら問題ないでしょ。バイバイ」
 彼女の落ち着いた声と、

  『ドン……!』

 爆音。

つづく

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最終更新日  2008年05月10日 20時59分07秒
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