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優樹瞳夢の小説連載部屋

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2008年10月04日
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カテゴリ:小説
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うさぎ探偵! PROF.1 夏休みは殺人(Last)

  10

「いるんだろ? 出てこいよ! 蓬餅!」
 紋次郎が誰に対してともなく叫んだとき、愛菜はギョッとして周囲を見渡した。

 ――蓬餅(よもぎもち)……!
 それは、今回の事件の真犯人で、かつ最後まで正体不明だった人物である。
 この近くにいる――。
 そう思っただけで、愛菜の心臓はビクンと跳ね上がった。

「…………」
 自分のみならず、まどかもこちらに組み伏せられたまま、ジッと成り行きを見つめていた。

 と――。

『バタン!』
 急に何か物が倒れる音がして、それから隣の部屋で突発的な騒ぎが起こった。
「待て!」
 それは、自分らの近くにいたはずの柳瀬刑事の声で、続けて別の男性の、
「刑事をなめるなよ!」
 という声もした。
 格闘戦らしき物音が十数秒ほども続き、大きな音がするたびに愛菜はやきもきした。

 だがやがて静かになると、廊下の方から2人の刑事に連れられて男が現れた。
「……!!」
 それを見て愛菜は本当に背筋が凍るかと思った。腹巻きのような毛糸状の布で、顔全体をずっぽりと覆った覆面男だったからである。
 柳瀬刑事の手には、男から取り上げたと思われる包丁。総身こそ短いが、鋭利でよく切れそうな。(アジ切り包丁という名前は、後で紋次郎に聞いた)

 ――殺人鬼。
 そう呼ぶのに、これほどふさわしい人物もいないように見えた。
「……ったく、何回逃げれば気が済むんだ。さっきは助けに行けなくてすいません。こいつを追いかけてたんです」
 柳瀬がそう愚痴ったところをみると、こちらがまどかと取っ組み合いをしてる間にも、彼らはずっとこの男を追いかけていたようだ。

「おまえ、自分が今どういう顔してるか分かるか!」
 もう1人の年配の刑事が、男の覆面をはぎ取ると……。
「…………!」
 愛菜は、まどかとともに、一斉に息を飲んだのである。

 次期テニス部長・清水勇介だった。
 普段の柔和な顔とも、部活中の真剣な顔とも違う、思い詰めた表情の。
「……ちくしょう!」
 彼は叫び、最後の抵抗をみせたものの、
「もう無駄だ。今から何をしても恥の上塗りだぞ」
 刑事にガッチリと腕を取られ、動けなかったようだ。

「これで分かったか、まどか! こいつは最初から、おまえも殺すつもりだったんだよ! 大方、罪を全部おまえに着せてな! それでもこいつはおまえにとって『俺の嫁』か!?」
 紋次郎があまりに必死に訴えるので、彼の胸からぶら下がった翻訳機がビリビリとノイズを発した。

 まどかはしばし何も答えられず、呆然と彼を見つめていたが、やがて、せきが切れたようにワッと泣き出したのだった……。

   ***

 犯人逮捕から3日。
 旅行の日取りを縮めて東京に戻った愛菜達は、数日後には加納の告別式に出席していた。

 親に頼んで喪服を出してもらい、ネットで付け焼き刃の知識を仕入れた。
 一夜漬けで必死に覚えたにも関わらず、緊張のあまり焼香の手順を忘れてしまい、その辺にいた人に手当たり次第に数珠を振ったあげく(超失礼)、燃えてる香炉に手を突っ込んで「あちっ!」と叫んだ。
 周囲からクスクスと笑い声が漏れたときは、顔から火が出るかと思った。紋次郎の奴めが向こう見てうずくまり、なんか背中プルプル震わせてるのを見たとき、いつか屠ってミートパイにしてやると心に決めた。

 とはいえ、長い長い緊張の時間もいつかは終わるものであり、さっきまで1時だったのが、いつの間にか2時もすぎていた。

 恵比須の駅前でオープンテラスのカフェに入り、コーヒーで一息つく。
「加納君のお母さん。……泣いてたね」
「……うん」
 抹茶オレを飲みながらつぶやく萌子に、愛菜は静かにうなずいた。

 葬式の間、加納の母親はずっと泣き通しで、まともに声も出ない姿がやけに痛々しかった。
 愛菜自身、ただ顔見知りが死んだというだけで、こんなにも心が乱されているのである。これが自分の親しい人だったら――たとえば萌子が車に轢かれたら。あるいは殺したいほど小憎たらしい例の弟が、自分が手にかける前に突然死んだら……。考えたくないと思うほどの恐怖が、思考を強制停止させる。
 ましてや自分の子。どれだけ悲しかっただろう。

「ねぇ紋次郎……。清水先輩さ。何がしたかったんだろうね」
 試しに愛菜は訊ねてみた。
 彼は逮捕されたあと、取り調べのためにまだ軽井沢にいる。動機だけは最後まで分からなかった。彼のどんな衝動が、殺人を犯そうと決意するまでに彼自身を思い詰めたのか。

 うさぎはテーブルの上で、クラッカーをカリカリとかじる手を止め、
「これは佐々木が、『今にして思えば』って、教えてくれた話だけどな」
 と前置きしたうえで、「清水の奴、次の都大会でマスコミの注目を集めれば、プロへの近道になるって言ってたんだそうだ。だからもしかしたら、プロ並に巧い加納が邪魔だったのかもな」
 そう答えた。

「まさかぁ。そんなことじゃないでしょ」
 愛菜はあまりに単純な理由に、あきらかに当てずっぽうだと思った。
 すると彼は少し考え、
「んー。でもさ、新聞とかによく『そんなことで人を殺すなんて』って書いてあるけど、じゃあ訊くが、どんな理由なら人を殺してもいいんだ?」
 と逆に訊いてきた。
「そりゃあそうだけど……」
 たしかに、人を殺していい理由なんてない。
 少なくとも、建前上は。
「弱味を脅されてタカられてた、とかだと納得はしやすいけど、つまるところ一緒だろ? まどかと。周りに相談できなくて、変なことで思い詰めたって意味じゃな。清水はしっかりしてた分、自分の悩みなんかも隠したがるタイプだったみたいだし。
 少なくとも言えることは、これが計画殺人だったってことだ。奴は宴会中に絶妙なタイミングで抜け出し、手早く効率的に加納を殺した。そして何1つ証拠を残さず周囲を撹乱した。それなりに長い準備期間がなきゃ、できることじゃない。ま、今さら何を言っても推測なんだけどな」
 言って紋次郎は、ヒョイと肩をすくめて見せる。
 そんなふうに言われると、愛菜としては納得するしかなかった。

「ところでさ。まどか、どこ行ったのかな……」
 不意に萌子が、ストローから口を放し、遠くを見るように言った。
「ああ。ホント、どこだろうなぁ」
 紋次郎も同じ方を見る。
 風の吹く、雲の流れる青い空だった。

 まどかは清水とともに逮捕はされたものの、実は翌日には家に戻っていたそうだ。情状酌量で補導扱いにするとかで、一時的に釈放されたらしい。
 だが今日、愛菜達が葬式に一緒に行くために彼女の家に迎えに行ったところ、彼女はいなかった。
 玄関の鍵も開いたまま、家の中は完全にもぬけの殻だったのである。
 夜逃げだ。しかも一家全員で。

 もしかするとこの親にしてこの子ありで、まどかの親もまた、変に思い詰めるタイプだったのだろうか。あるいは、彼女ら一家は最初からすねに傷があって、ほんのちょっとした失態に大騒ぎせざるをえなかったのかもしれない。
 その辺りの事情は分からないが、ガランとした室内はやけに薄汚れて見えた。
「元気だといいな……」
 萌子の言ったその一言がやけに印象的で、その後愛菜はこの言葉を長く覚えていた。

 どちらにしろ、自分達の周りで殺人事件が起き、その犯人が自分達の知る人物だったという今回の事件。この経験が、自分に色々なものを刻みつけたことはたしかだろうと、愛菜は思う。
 この、人のようにふるまう不思議なうさぎがいなければ、きっと事件は解決しなかったことも含めて。

「ま、元気ではいるだろうさ! 今はそう信じるしかあるめぇ?」
 鼻をふんふんと鳴らし、長い耳をピンと立てて、紋次郎は萌子を元気づけるようにそう言った。

 それがあまりにその通りだったので、愛菜はうなずいておくより他になかったのである。
「そうね」
 人間同士の泥臭いしがらみもない、のんびりと餌を探す鳩達を眺めながら。

 紋次郎にこのアンニュイな気持ちが理解できるのかどうか、彼は多少苦々しくほほ笑みつつも、それ以上何も語らずポリポリポリポリと忙しくクラッカーを噛った。

つづく







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最終更新日  2008年10月04日 21時20分42秒
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