ベジタリアン(菜食主義者)は脳出血のリスクが高い?
今年の9月に英国の医学雑誌・ブリティッシュ・メディカルジャーナル(BMJ)に発表された研究報告によれば、20歳から90歳までの2万8364人を分析対象に、約18年間追跡したところ、食生活と虚血性心疾患や脳卒中のリスクの関係について次のような結果が得られたとのことです。<研究結果の要約>1.虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞などの心血管疾患)のリスクは、肉を食べる人に比べ、魚を食べる人では13%低く、ベジタリアンでは22%低かった。2.脳卒中(脳梗塞や脳出血など)のリスクは、ベジタリアンでは20%高く、特に出血性脳卒中については43%も高かった。一方、魚を食べる人では脳卒中のリスクに変化はなかった。原著論文:Tong TYN, et al. BMJ. 2019 Sep 4;366:l4897.<解説>この結果は、ベジタリアンというヘルシーなイメージに疑問を投げかける内容ですが、日本における1950年代の研究で、東北地方の農村部(内陸部)と漁村部(沿岸部)での比較では、脳卒中の発症率が農村部の方が高く、また高血圧の発症率も農村部で高かったことが報告されています。この論文では農村部の食生活が白米過剰摂取、食塩過剰摂取の傾向にあり、漁村部ではその逆であったとのことです。昔から東北地方の農村部では食塩の多い漬物を多食する食習慣があったことはよく知られています。当時はまだタンパク質栄養の重要性やEPAやDHAなどのオメガ3系脂肪酸の効用なども知られておらず、注目されなかったと思われますが、魚からの良質なタンパク質や脂質が血管の健康を助けてくれていること、また、コレステロールは細胞膜の形成に不可欠な物質であり、血管壁の細胞を形成するうえで必要な物質であることなどを考えると、ベジタリアンの食生活は、血管の強度の維持には不利に働くのではないかとも考えられます。もっとも、一般的なベジタリアンの場合は卵や乳製品までは制限しないので、コレステロールが不足しているとは必ずしも言えません。今回の研究では、ベジタリアンの血中コレステロールは、悪玉も善玉も含めて全体的に肉食よりはやや少なかったようですが、これが本当に影響しているのかどうかは疑問です。今回のイギリスの論文については、なぜこのような結果になったのかについて判然としない面もあり、今後他の人口集団での調査や要因についてのさらなる研究が必要とされています。参考文献:伊藤祐一,民族衛生,25巻(4号):542~581,1959