地球温暖化は「エセ科学」か? その3
前回から時間があいてしまったが、第3回である。今回は、私が興味をもった以下の部分についてである。田中氏:「測定された世界の海洋の温度の平均値は03年以来下がっているが、これも温暖化とは逆方向である。海洋の温度が下がると、理論的にはハリケーンや台風が減る方向になる。最近は台風が多いとか、今年は暖冬だからという直観で「温暖化は間違いない」と軽信するのは、やめた方が良い。http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/article1363818.ece」これは2006年に発表された論文に基づいていると思われる(注)。(注:田中氏が引用しているWall street Journalは会員でないために読めなかった)Lyman, J. M., J. K. Willis, and G. C. Johnson, 2006: Recent cooling of the upper ocean. Geophysical Research Letters, 33, L18604, DOI:18610.11029/12006GL027033.この論文は昨年なかなか評判を呼んだ論文である。海洋の750mより浅いところで積算した海洋温度がさがっているという図は以下のpdfの10ページ図1でみることができる。http://oceans.pmel.noaa.gov/Pdf/heat_2006.pdf田中氏の文やこの図だけみると、今まで温暖化だと思っていたものが、最近になって想定外の冷却がおこっているように思われるかもしれない。しかしながら、こういうことはそれほど珍しくない現象らしい。たとえば、以下のPDFでは、Levitus博士らによる過去のより長いデータを見ることができる。http://www.climatescience.gov/workshop2005/posters/P-GC1.1_Levitus.pdfこれによれば、例えば1980年代にも大きな冷却がおこっている。しかし、これは一時的な現象であって、その後は再び温度は上昇に転じている。長期的にみれば海の温度はずっと上昇してきているのである。また、地球温暖化に使われているシミュレーションモデルはこのような長期的な温度上昇をよく再現している。その一例は、以下のページの3番目の図で見ることができる。Planetary energy imbalance?http://www.realclimate.org/index.php/archives/2005/05/planetary-energy-imbalance/(赤線が観測。同じモデルを、初期値を変えて5回走らせてモデルランダム差を表現している。黒がその平均。黒線と赤線とは、短期的な凸凹をのぞけば、長期的にはよく合っている)田中氏が言うように、「最近は台風が多いとか、今年は暖冬だからという直観で「温暖化は間違いない」と軽信するのは、」確かにやめた方が良い。まったく同じ意味で、最近海洋の温度が下がっているからといって温暖化とは逆方向であると強調するのもいかがなものか。(注)「海洋の温度が下がると、理論的にはハリケーンや台風が減る方向になる」とあるが、そう単純ではない。温暖化シミュレーションの中には温暖化にともない台風は減少すると予測するものもある(ただし強い台風は増える可能性がある。例えばhttp://journal.mycom.co.jp/articles/2004/08/07/ondan/) 田中氏のことはおいておいて、Lyman博士らが投げかける科学的な問題は別のところにある。上でみたように長期的にみれば、観測とシミュレーションはよく合致する。それは問題ない。しかし、短期的な凸凹はシミュレーションでは再現されていない。やっぱりシミュレーションには問題があるのではないか?これに対してはモデルの立場からも、広い海を観測でちゃんとカバーできているのか?観測の方に問題があるのではないか?との反論が出され(注)、現在議論が進んでいるところである。(注)例えばGregory, J. M., H. T. Banks, P. A. Stott, J. A. Lowe, and M. D. Palmer, 2004: Simulated and observed decadal variability in ocean heat content. Geophys. Res. Lett, 31, L15312,doi:15310.11029/12004GL020258.Lyman博士らの論文の仕事の新しいところは、日本も貢献しているARGO(注1)と呼ばれる新しい観測網のおかげで観測のエラーは少ないのではないかというところにある。しかしながら、これに対しても同じ観測の立場から疑問が出されているし(注2)、実はARGOのデータの一部には間違いがあるらしいことが最近になって明らかになっている(注3)。要するに、まだ議論が進んでいる段階なのである。(注1)http://www.jamstec.go.jp/J-ARGO/index_j.html(注2)www.clivar.org/organization/etccdi/etccdi2/ppt/ETCCDI_talk_palmer.ppt (パワーポイントファイル)(注3)http://www.jamstec.go.jp/ARGO/NEWS1/WHOI-floats.html下のビデオ講義に詳しい 参考”The Demise of Sudden Ocean Cooling?”http://www.ucar.edu/webcasts/でビデオ講義を見ることができる。RealClimateブログ(英語)よりOcean heat content: latest numbershttp://www.realclimate.org/index.php/archives/2006/08/ocean-heat-content-latest-numbers/