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環境・平和・山・世相 コジローのあれこれ風信帖

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2011年07月29日
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 この日曜日に紀峰山の会が実施した大峰山系上多古(こうたこ)川本谷の沢登りで一人が不明になる事故があり、これを受けて二日間の捜索の結果、残念ながら不明者は急峻な斜面から滑落した遺体で発見された。詳細は不明だが、夜半になんとか林道終点の登山口まで下山はしたものの、その後、なんらかの事情で林道より転落したものと思われる。昨日は通夜、今日のいまは葬儀が終わったところだ。

 遭難者はコジローの山の師匠にあたる方で、いまからもう30年ほども前になるが、最初に連れて行ってもらい沢登りの手ほどきを受けたのがまさに、この上多古川だった。それからいったい幾度、山行を共にしたことだろう。これ以上はないまじめで実直な方だっただけに、山でも実社会でもしょっちゅう悶着を起こす無頼の弟子は、テントでもたき火を囲んでも、ことあるごとに冗談交じりの小言を食らった。年齢は15歳違い、少し若い親父から説教されているような不思議な感じだった。

 山の経験は長かったが、華やかなアルプスの3000m峰などに行ったことなど生涯に一度もなかったはずだ。ただ、若い頃から谷の美しさに魅せられ、紀伊半島の山襞の奥の源流へ求道者のように通い詰め、紀伊の沢の「主」とも「生き字引」とも「神」とも呼ばれた人だった。一定の年齢に達してからはこれに絵の趣味が加わった。師匠のお供をして谷の奥へ分け入り、美しい滝の前に腰を据えた師匠がスケッチを終えるまで、岩の上に身体を伸ばし、沢音を聞きながら気持ちよく昼寝をむさぼった天国のような時間が、いまありありと蘇る。

 沢登りは総合力が問われる登山ジャンルだ。谷に道はないから、まず第一にルートを読む力が試される。大岩を乗り越し、滝をよじ登り、深い淵をへつるにもそれぞれ独特の技術と判断力が必要だ。師匠に華麗なテクニックはなかったが、その登攀スタイルには長い経験で裏打ちされた重厚な確かさが常にあった。使い古しのニッカズボンとワイシャツ、つぎはぎだらけの年季の入ったザック、地下足袋にわらじ、時代物のハーネス、ひと昔前のモノクロ写真を見るような出で立ちが薄暗い紀伊半島の谷の情景に溶け込み、実によく似合った。

 そんな沢登りの化身のような方が、あろうことか、自分の庭のように慣れ親しんだホームグラウンドの沢で逝ったのだ。享年74歳。このところ、体力やバランス能力の低下を口にしておられただけに、恐らくは最後の沢登りとの思いもよぎったろう。そうしてこの人がやがて谷から去り再び戻らないであろうことを山の女神は恐れ、下界に立ち去る寸前に呼び止めて、永遠に自分のものとすべく懐に抱きしめ連れ去ってしまったのではないか。いまはそうした思いが強い。

 葬儀の祭壇には生涯愛した山をバックに、独特のはにかんだ笑顔を見せる師匠の写真が飾られていた。その両側には、見覚えのある大きな滝の絵が二枚。左の一枚は明らかに前鬼川不動の大滝、右の一枚はよく見かける形で断定はできないが銚子川清五郎(さいごろう)の滝か。とすれば、この原画のスケッチを師匠が描いていたとき、コジローは確かにそのそばで仰向けに寝転びながら、谷底から見上げる狭い五月の空に、白い雲が流れていくのを眺めていたはずだ。

 時は巡り、弟子も厳しい沢登りには逡巡を覚える年齢となった。だが、師匠は山の神に愛されて山に召され、いまや広大な自然の一部となって遠く去り、もう弟子がどんなにがんばっても手が届くことはない。遺族の悲しみを思えば無念が募るが、ある意味では本望を遂げた沢屋一代の見事な完結劇だったとも言えるだろう。もうあの小言を聞けないことだけが心残りだが・・・    合掌

 

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最終更新日  2011年07月29日 17時00分52秒
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