目標や課題から目を離さないということ
元体操日本代表に選出された白井健三選手のお話です。白井選手は床が得意です。床には150の技があるそうですが、その中で「後方伸身2回宙返り3回ひねり」という技はH難度で一番難しい技とされています。「シライ3」と呼ばれて彼しかできないと言われていました。しかし金メダルを獲得して当たり前という状況の中で、2014年の世界選手権の「ゆか」は2位に終わりました。白井選手は、その敗因について「同じことをやっていたから負けたのだ」と分析しました。というのも、この大会で彼が披露した技は、すべて前年の世界選手権で優勝したときと同じものでした。その結果知らず知らずのうちに気が緩み、「同じ内容でも勝てるだろう」と思ってしまったのです。演技の内容自体に目標を見失い、守りに入っていたのです。これを教訓にして、2015年の世界選手権では、当時の最高であるG難度の大技「リ・ジョンソン」に挑戦して成功させました。そのほかの大技も次々と成功させて再び世界王者に返り咲きました。(弱さをさらけだす勇気 松岡修造 講談社)この話は目標や課題を持ってチャレンジすることがいかに大事になるかを教えてくれています。目標や課題を持っていることは、人間の精神の健康を維持するために欠かすことができないものです。これは脳の仕組みを理解すると容易に察しがつきます。優勝できなかったときは、自分でも気がつかないうちに、緊張感が薄れ、弛緩状態(根拠のない安心感や安堵感)が入り込んできたのです。その時脳内では、やる気の脳と言われる腹側被蓋野、側坐核、A10神経群、前頭前野の活動が抑制されていたのです。報酬系神経回路の活動が抑えられてしまうので士気が高まらない。前頭前野は、「まさか、失敗するようなことはないだろうな」と予期不安が強まります。こんな状態では勝てる試合にも負けてしまう。焦れば焦るほど、成果を上げることができなくなってしまいます。さらに悪いことは重なるものです。ノルアドレナリン主導の防衛系神経回路が脳内を駆け回るようになるのです。これで勝とうというのは虫がよすぎます。目標や課題の存在は我々が考えている以上に大きな影響を与えていることが分かります。森田では目標や課題から目を離さないために、先ずは凡事徹底に取り組むことをお勧めしています。大きな目標を持つ前に小さな一歩を踏み出すことが大事になります。