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2014年12月21日
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カテゴリ:国内「い」の著者

老成と若さの不思議な混淆、これを貫くのは豊かな詩精神。飄々として明るく踉々として暗い。本書は初期の短編より代表作を収める短編集である。岩屋の中に棲んでいるうちに体が大きくなり、外へ出られなくなった山椒魚の狼狽、かなしみのさまをユーモラスに描く処女作『山椒魚』、大空への旅の誘いを抒情的に描いた『屋根の上のサワン』ほか、『朽助のいる谷間』など12編。(「BOOK」データベースより)

■井伏鱒二『山椒魚』(新潮文庫)
いぶ井伏鱒二:山椒魚.jpg

◎短編小説ナンバーワン

 すぐれた短篇小説をひとつあげるようにいわれたら、迷うことなく井伏鱒二『山椒魚』(新潮文庫)と答えます。『山椒魚』は、文庫本でわずか10ページ足らずの作品です。以前は中学国語の教科書にも掲載されていましたが、最近は消えてしまっているようです。(村上護『教科書から消えた名作』小学館文庫を参考にしました)

 書き出しが美しい小説の代表格として、川端康成『雪国』(国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。)や島崎藤村『夜明け前』(木曽路はすべて山の中である。)をあげる人は多々おります。いっぽう『山椒魚』の冒頭の一文は、美しいというよりも唐突感が強くて印象深いものです。
――山椒魚は悲しんだ。

 夏目漱石『吾輩は猫である』(新潮文庫)の冒頭よりも、ずっとインパクトがあります。書きだしの文章は、つぎのようにつづきます。

――彼は彼の棲家である岩屋から外に出てみようとしたのであるが、頭が出口につかえて外に出ることができなかったのである。
  

 山椒魚はうっかりしている間に肥満して、棲家から出られなくなってしまいます。それを絶望しているのが、冒頭の1文です。ある日岩屋に1ぴきの蛙がまぎれこみます。山椒魚は自らの体で出口をふさぎ、蛙を幽閉してしまいます。2ひきは狭い岩屋で反目しあいます。絶望的な2年がすぎます。絶望のなかで黙りこむ2匹……。

『山椒魚』は1923(大正2)年に、「幽閉」というタイトルで発表されました。それから6年後、タイトルを「山椒魚」と改めて再度発表されました。このとき井伏鱒二は、冒頭の一行だけを残して全文を書き改めています。「幽閉」のときには、蛙との罵り合いの場面はなかったようです。(『おじさんは文学通2』明治書院新書を参考にしました)

 井伏鱒二はさらに晩年(正確には1985年『自選全集』に収載時)になって、最後の1ページ(20行)をばっさりと削除してしまいます。私の手もとにある新潮文庫は、平成21年102刷ですが、最後の20行は削除されていません。阿刀田高『短編小説を読もう』(岩波ジュニア新書)でこの逸話を読んでから、ずっと削除された作品を探していました。そしてついに発見しました。『群像日本の作家16井伏鱒二』(小学館)に所収されていた『山椒魚』は、「作品推敲のあと」が赤字で表記されていました。最後の20行には、赤い線がくっきりと引かれていたのです。

 『山椒魚』は、井伏鱒二の処女作です。はじまりとおわりにこだわりつづける、著者の熱気のようなものが伝わってきます。。

◎坐っていられないほど興奮した

 太宰治は中学時代に『山椒魚』を読んで、「坐っていられないほど興奮した」と書いています。(「井伏鱒二選集第1巻後記」より)この記事を読んだとき、『山椒魚』の世界は、太宰治の一連の作品と似ていると思いました。絶望のなかのユーモア。それが太宰をひきつけたのかもしれません。

 精神科医の斎藤環は、本書を「引きこもりの人が出られなくなる様を、本当にリアルに切り取った話」(『NHK私の1冊日本の1冊・感動がとまらない1冊』より)と評価しています。

『山椒魚』は、意図的に美文を避けて書かれています。何度も読み返しているはずですがそのことは、「佐藤正午『小説の読み書き』(岩波新書)」の指摘を読むまで知らずにすごしました。佐藤正午はなぜ意図的に悪文にしたのか理由はわからないと記しています。

 しかしその答えは、三浦哲郎『師・井伏鱒二の思い出』(新潮社)のなかにありました。三浦哲郎の習作について、井伏鱒二がつぎのような評価をくだすの場面があります。

――材料がまだ熟してなかったね。それに、やっぱりうまく書こうとしているよ。(P20より)

 幽閉された山椒魚の鬱屈を表現するには、流れるような美文は不似合です。そんな著者の意志が、色濃くあらわれているのかもしれません。
 

井伏鱒二にはほかに、『駅前旅館』(新潮文庫)『黒い雨』(新潮文庫)『ジョン萬次郎漂流記』(直木賞、新潮文庫)など紹介したい作品は数多くあります。いずれ「+α作品」として紹介させていただきます。『山椒魚』には「屋根の上のサワン」「朽助のいる谷間」など12の短篇が所収されています。阿刀田高(『短編小説を読もう』岩波ジュニア新書)や筒井康隆(『短編小説講義』岩波新書)が力説しているとおり、短篇小説っていいなと思われるはずです。

(山本藤光:2013.08.31初稿、2014.08.17改稿)






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最終更新日  2017年10月09日 04時44分57秒
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