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2015年05月29日
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私は今まで夫の人形にすぎなかった! 独立した人間としての生き方を求めて家を捨てたノラの姿が、多くの女性の感動を呼ぶ名作。(文庫案内より)

イプセン『人形の家』(新潮文庫、矢崎源九郎訳)
イプセン:人形の家.jpg

◎当時の社会に大きな問題提起

『人形の家』(新潮文庫)はイプセンの代表作でもあり、世界屈指の戯曲でもあります。本書は、女性や夫婦とはなにかに切りこみ、当時の社会に大きな問題提起をしました。日本での初舞台は、明治44年坪内逍遥が主宰する文芸協会試演場(坪内逍遥の邸宅内)ででした。その後帝国劇場で開催され、主演のノラ役は松井須磨子が演じています。

『人形の家』は、イプセンの生いたちから生まれた作品です。ちょっとだけ、紹介させていただきます。

――南ノルウェーのシーエンに生まれる。父は裕福な実業家だったが、イプセンが八歳の時破産して、一家は貧困のどん底に落ちた。一五歳の時、グリムスターという小さな田舎の薬局の見習いとなり、完全に下層階級の扱いを受けた。これらの経験から市民階級に対して強い反感をいだき続けたことが、後年の作品に強い影響を与えている。(「新潮世界文学小辞典」より)

イプセンは必ずしも、順調に名声を勝ち得たのではありません。文献によると、1866年『ブラン』、1867年『ペール・ギュント』、1873年『皇帝とガリレア人』(いずれも文庫見あたりません)までは、苦難の連続であったようです。イプセンの地位を不動のものにしたのは、『人形の家』に代表される社会劇に挑戦してからでした。
 
前記のように、イプセンの初期作品は文庫では読めません。また『人形の家』を除くと、後期作品も書店では手に入りません。「笹部博司の演劇コレクション・イプセン編」(メジャーリーグ文庫)には、『人形の家』以外の前記作品が収載されているようです。

戯曲としての『人形の家』について、劇作家・田中千禾夫はつぎのように書いています。

――『人形の家』は近代劇の模範的典型だったが、それは主題の剛強もさることながら、時間、場所、人物、すべて単純を旨とする劇作法の根幹をなす「三単一」の法則に準拠した構成の緊密に負うている。当節は飛んだり跳ねたりの活劇が流行するが、凝縮して練り上げる劇作法として、今日でも有効性を失うべきではあるまい。八方美人的にぎやかさに欠けるけれど。(田中千禾夫、朝日新聞社学芸部編『読みなおす一冊』朝日選書より)

◎かわいい小鳥ちゃんの決断

ヘルメス弁護士の妻・ノラは夫から、「かわいい小鳥ちゃん」と呼ばれるほど愛されています。ノラには3人のこどもがいます。ある日ヘルメスが、銀行頭取に出世することがきまります。夫は堅物ですが、頭取就任はうれしくてたまりません。
 
バラ色にみえたヘルメス一家に、暗雲がたちこめます。ノラには夫に隠している秘密がありました。新婚当時夫が病に倒れ、その転地療養のために、多額の借金をしていました。ノラは自分の父親から借りたと夫に伝えていましたが、ある男から借りたものでした。しかもノラは男から借りた借金証書に、父親の名前を偽造していたのです。

借金をした男・クログスタットは、ヘルメスが就任する銀行に勤めています。彼は過去に不祥事をおこし、ヘルメスは解雇の意志をもっています。それを察知したクログスタットは、ノラを脅しはじめます。借金の件を公にしないかわりに、自分を銀行に残すようヘルメスを説得せよ、と詰めよってくるのです。
 
ヘルメスはきまじめな性格であり、ひどく世間体を気にします。ノラはそうした夫の性格を熟知しており、途方に暮れてしまいます。クログスタットを解雇しないように、夫に要請しますが聞きいれてはもらえません。
 
夫・ヘルメスはクログスタットからの、脅迫の手紙を読んでしまいます。夫は自分の世間体を気にして、ノラを激しく叱責します。この間のやりとりは、非常に緊迫感があります。これまで「かわいい小鳥ちゃん」と呼んでいた夫の逆上ぶりに、ノラは夫の本質に気づかされることになります。
 
テンポのよい会話のキャッチボールは、とんでもないなりゆきで終わってしまいます。クログスタットからの新たな手紙で、元どおりの平穏を取り戻すはずでした。ところが「かわいい小鳥ちゃん」は、それではおさまりません。いちど本性をあらわした夫を許せないのです。
 
『人形の家』は、わずかに3幕の戯曲です。クリスマスイヴからの3日間で、小鳥ちゃんが豹変してしまいます。このあたりのテンポのよさとエンディングは、みごとだと思います。

――ノラ:あなたはあたしに対して、いつも大変親切にしてくださいました。でもあたしたちの家庭はほんの遊戯室にすぎませんでした。あたしは実家で父の人形っ子だったように、この家ではあなたの人形妻でした。(本文P139より)

自分はなんだったのか。夫の単なる人形にすぎなかったのではないか。ノラはある決断をし、そのことを実行にうつします。

(引用はじめ)
ノラ:あたしはここから今すぐ出てまいります。今夜はクリスチーヌさんが泊めてくれますでしょう――
ヘルメス:お前はどうかしている! そんなことは許さん! わたしが禁じる!
ノラ:これからはあたしに何を禁じようとなさっても、なんにもなりません。あたしは自分の物だけ持ってまいります。あなたからは何も頂きません。今後もそうです。
(引用おわり、本文P141より)

斎藤美奈子は著書『名作のうしろ読み』(中央公論新社)のなかで、最後の場面に注目しています。ノラが「さようなら」といって、「玄関を通って出て行く」場景の直後です。

(引用はじめ)
ヘルメス:(扉のそばの椅子に頽れて、両手で顔をおおう)ノラ! ノラ!(そこらを見回して立ち上がる)いない。行ってしまった。(一縷の望みがわいてくる)ああ、その奇蹟中の奇蹟が――!?
(下から家の大扉にがちゃりと錠の下りる音が聞こえてくる)
(引用おわり)

「一縷(いちる)の望みがわいてくる」とは、なんだったのでしょうか。私はヘルメスが「妻はまだ外にはでていないので、後悔して部屋にもどってくる」と思ったのだろう、くらいに受けとっていました。そして最後の「がちゃり」でかすかな希望も潰えたと思っていました。斎藤美奈子はこう書いています。

――最後のせりふを考えると、彼は妻を追っていきそうな勢いだ。ヘルメスは何もわかっていないのである。わかっていたら、絶望で終わるはずだもん。(斎藤美奈子『名作のうしろ読み』(中央公論新社より)

(山本藤光:2010.06.30初稿、2015.05.28改稿)





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最終更新日  2017年10月13日 09時16分49秒
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