■小説「どん底塾の3人」018:袋ラーメンの評判
◎あらすじ
配置転換、リストラ、倒産で転身せざるを得なくなった3人。つぶれそうな定食屋「どん底」で店主亀さんの熱烈指導を受ける。授業料はいらない。ただし定食屋「どん底」の再建に力を貸してもらいたい。あの「世界一ワクワクする営業の本です」を、新たなものがたりにリメイクしました。(山本藤光)
◎第018話
食堂がお客さんに、インスタント・ラーメンを提供する。昼の新ビジネスは、ひとつの冒険だった。亀さんはこの企画がきまってから、トリガラ、煮干、コンブ、野菜などを煮込んだ濃厚なスープ作りをしていた。お客さんが、好みの袋ラーメンと具材を選ぶ。それを特製スープで調理する。亀さんにとっては、楽しい企画だった。
不発に終わった朝食バイキングのあと、3人は簡単な打合せをしていた。亀さんは、そんな彼らの意気込みに期待している。
3人は朝食バイキングの不発で、打ちひしがれていた。明日からは、店員のよしこのともだちが専任で店番を担当するという。なんとしてでも、客を集めたい。それは3人に共通の思いだった。
昼のラーメンまでは、2時間ほどの間があった。大河内の音頭で、加納が手製のビラを作成している。
――お昼は、インスタント・ラーメンにしてみませんか? 定食屋「どん底」では、あなたが選んだ袋ラーメンと具材を、特製スープで調理します。本日オープン。
――定食屋「どん底」では、バイキング・スタイルの朝食をはじめました。家を出る時間をたった15分早めるだけで、あなたに健康な1日が訪れます。
2つのコピーを連ねたビラは、1000枚用意した。3人は手分けして、駅や企業でそれを配布した。
20種類の袋ラーメンが並んでいる。その横にはチャーシューやゆで卵、メンマがあり、複数の野菜が並ぶ。お客さんは好みの具材を皿に取り、レジを通ってカウンターに置けばよい。あとは亀さんが調理をする。
3人は、ビラ配りを続けているらしい。亀さんは迫ってきた開店時間を前に、おにぎりを作っていた。全部で50個を握り終えて、亀さんは多すぎたかもしれないと苦笑する。
大河内が、肩で息をして戻ってきた。
「たいへんです。ものすごい行列ができています」
通りにはビラを手にしたお客さんが、開店を待ち構えている。加納と海老原も、驚いた表情で駆けつけてきた。
「よし、加納はレジと店番。大河内は厨房に入れ。海老原はおにぎり作りだ」
亀さんの号令が飛ぶ。お客さんが次々に入ってくる。朝の魚河岸のように、店内は活気に満ちあふれた。女性客が多い。4人は汗だくになりながら、黙々と仕事をこなした。12時半には、具材がつきた。
待っていたお客さんに自分の名刺を渡しながら、加納は頭を下げている。とっさに取った行動だった。
「この名刺を持参いただければ、明日は半額にさせてもらいます。本当に、申し訳ありません」
※ダントツ営業の知恵
あらゆる手段を動員して、売り込め。売り込めば、道は拓ける。