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カテゴリ:営業マン必読小説:どん底塾の3人
■小説「どん底塾の3人」030:長屋の造り
加納百合子は娘の綾乃を連れて、母親とその友人たちをすし屋「夢」に招待した。予約電話に対し、若い主人が「自分へのご褒美かい?」と質問してきた。加納は「違う」と答え、「お世話になった感謝の席だ」と告げた。 店に入ると、窓際のいちばんよい席が用意されていた。今日も満席だった。ビールとオレンジジュースが運ばれてきた。何も注文はしていない。 「本当にお世話になりました。ありがとうございます」 加納がグラスを上げた。 「楽しかったわよ。お礼をいいたいのは、こちらの方です」 母親の親友・博子が仰ぐように右手を振りながらいった。自動的に船盛りが運ばれてきた。前回と同じ進行である。中央には黄色い棒の代わりに、大根で細長い建物が作られていた。加納には、意味がわからない。大将の方に視線を向けた。 「官舎だよ、感謝の印」 周囲から笑いが起きた。 「ママ、官舎って何?」 綾乃は官舎を知らないようだ。加納が説明する。 「昔はJRのことを国鉄と呼んでいたんだけど、駅の周りにはこんな長屋がたくさんあったの。それが鉄道官舎といわれていたわけ。お礼の感謝と、長屋の官舎をかけ合わせたダジャレよ」 大根にはコンブの屋根が乗り、窓はガリで作られていた。頭が下がった。この店には楽しさがある。博子たちが、腹を抱えて笑っている。 母親たちは加納が説明した「どん底塾」と、この店の名前「夢」とのギャップで盛り上がっている。 「綾乃ちゃんくらいのときかな、海水浴で溺れかけたことがあるの」 博子が笑いながら話しはじめた。 「足が海底についたから、上を見上げたわけ。7色の光の帯が海面までつながっていた。水面には、マーブルチョコレートみたいな水泡が無数にあった。はじめて経験した神秘的な世界。あそこへ戻りたいと思った。必死に海底を蹴ったわ」 「それでどうしたの」と母親。 「死んでいたら、ここにはいないわ。どん底で思い出したわけ。あれはまさに、どん底から見たと夢の世界だったわ」 どん底と夢を、博子は巧みな思い出でつないでくれた。 「これは、店からのプレゼントです」 店主が運んできたのは、不思議な形のノリ巻だった。 「綾乃ちゃん、これなんだかわかるかい?」 店主は娘の名前を覚えたらしい。これぞプロフェショナル、と加納は驚嘆する。 「蟻さんみたい」と綾乃が答える。 「大当たり。では数を数えてご覧」と店主。 「全部で10匹」 「そう、蟻がトゥ(10)」 再び大爆笑。 ※加納百合子の日記 母親たちへのお礼を兼ねて、すし屋「夢」に行ってきた。この店には「楽しさ」がある。なにやら、仕事の原点が凝縮されている感じがする。店の主人たちも楽しそうだし、お客さんも愉快にやっている。もちろん、おすしも新鮮でおいしい。 豪華な料理だったので、料金は覚悟していた。「お1人さま、 3900円」といわれた。あまりにも安いので聞き返すと、「今日は感謝の日でしょう。だからサンキュウ」だって。どこまでも笑わせてくれる。 ※ダントツ営業の知恵 感謝の気持ちをどういう形で表現するのか。それもタントツ営業の大切な要件である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年02月17日 03時27分30秒
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