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カテゴリ:営業マン必読小説:どん底塾の3人
■小説「どん底塾の3人」034:1日働いて赤字
最初に戻ったのは、大河内雄太だった。顔が上気している。満足そうだった。さっそく亀さんへの報告がはじまる。 「45個、売れました。それも、あっという間でした」 「どことどこへ行った?」 「芝公園のビル街です。夜に弁当を買う人はいないので、帰ってきました」 「夜は弁当を食わない? どこで、そんな知識を仕入れたんだ。先入観でモノをいってはダメだ。おれは調べてきた。銀行や官庁街は、まだ煌々と電気がついているぞ」 なぜ、もっと粘らないのか。買い手はいくらでもいる。部活中の学生だって、終わったらみんなで食堂へ繰り出す時代だぞ。半分以上も、弁当を残して戻った。この弁当の原価は500円だ。そこのホワイトボードで計算してみろ」 ほめられることはない、と予想していた。大河内は、ホワイトボードに計算式を記入する。 ――利益:45×500円=22500円。損失:55x500円=27500円。 「わかるか? 半分で損益分岐点なのだよ。1日働いて赤字。こんなバカな商売があるか。おめでたいんだよ、おまえさんは。まだ時間がある。どこかへ行って、利益を上げてこい」 加納百合子は、最悪だった。売れたのは、わずかに28個。打ちひしがれて戻った加納は、「売れなかった分の弁償をします」と頭を下げた。 「バカもん。だれが弁償しろといった。売れなくて、あたりまえだろう。買ってくださいともいえない奴が、売れるはずがない。こんなことでは、営業マンは勤まらんな」 選挙カーのようにノロノロ走っている加納の車は、何度も警笛を鳴らされた。そのたびに、加納の車はスピードを上げた。 海老原浩二が戻ったときは、午後11時を回っていた。満面の笑顔だった。勝利者だけに許される微笑。 「完売です。昼と夜に、ぼく自身が1個ずつ食べましたので、実際に売れたのは98個でした。やりました。楽しかったです」 海老原は口をついて出た「楽しかった」という言葉を、不思議な思いで反芻してみる。 「やったな。それで、どこで売ったんだ?」 「いつも通っているマンションです。昼に断わられたお宅を、夜にも訪問したんです。そうしたら、びっくりするくらい売れちゃって、自分でも何がなんだかわかりません」 「おまえ、客に質問されなかったか? まさか、昼間に売りにきた弁当じゃないでしょうね、って」 「はい、そう質問されました。昼間のは全部売れて、新しいのを仕入れてきましたと答えました」 「ウソはダメだ。腐らない材料だけを選んであるから心配ないが、客にウソをつくのは真の営業マンじゃない」 大河内浩二が再び戻ってきたのは、12時を過ぎていた。泣いていた。泣きながら、彼は深々と頭を下げた。 「亀さん、ありがとうございます。全部売れました。やればできます。何か一皮むけた感じがします。本当にありがとうございます」 大河内はホワイトボードの数字を、赤色で修正する。 ――利益:100x500円=50000円 そして「損失」の部分を、棒線で消し去った。拍手が起きた。海老原も泣いていた。加納だけが、失意のなかにいた。 ※加納百合子の日記 ダメ。売れない。自分自身に絶望。 ※ダントツ営業の知恵 ウソをついてはいけない。1度ウソをつくと、それを正当化するために、もう1つのウソをつくことになる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年02月24日 04時08分22秒
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