|
カテゴリ:営業マン必読小説:どん底塾の3人
■小説「どん底塾の3人」033:1か月に1回の限定弁当
紙袋に弁当を10個入れ、海老原浩二は高層住宅の最上階から販売を開始した。やはり、自動食器洗い乾燥機とは勝手が違った。インターホンを押す。指先が震えた。いきなりドアが開く。若い女性と女の子が、顔をのぞかせている。 「1か月に1回の限定お弁当です。美味しいですから、めし上がってみませんか」 部屋で練習した通りにいえた。 「お昼はもう用意してあるし、うちは結構です。それにしても、なんで、1か月に1回の限定弁当なの?」 「1度食べてみると、わかります。本当においしいんです」 「いりません」 ドアが閉められた。空振りだった。結局、最初の棟では、2個売れただけだった。次の棟へ移動するとき、海老原は絶望的な気持ちになっていた。手応えが悪すぎるのだ。 「いちばん上の弁当は、紙包みを取ってみろ。口でいくらおいしいといっても、現物を見ないことには買おうとは思わないだろう」 耳の奥で、亀さんの声が聞こえたような気がした。商品見本を作っていなかったことに、海老原はようやく気がついた。 加納百合子は文房具店で、模造紙とマジックインクを購入した。 ――1か月1回の美味しい限定弁当。たった1000円 予定通り、模造紙を車に張る。団地の広場では、主婦たちがこどもを遊ばせていた。加納はその横を、車をゆっくり走らせた。窓から顔を出して呼びかけたかったが、どうしても勇気がわかなかった。だれひとり寄ってこない。 「主婦が自分のために、1000円弁当を買うか?」 亀さんの言葉が、よみがえってきた。加納は団地を諦め、商店街へと車を向けた。自分には、営業は向いていない。加納は痛切に、そう思い知らされた。 小用のために、河川敷の野球場で車を停めた。歓声が聞こえた。トイレから戻ると、車の前にユニフォームを着た男が数人立っていた。 「いやっしゃい。とてもおいしい弁当ですよ」 赤面しながら、絞り出すように加納が告げる。 「勝利の祝いだ。おれがおごるよ。待望の初勝利なんだから、しばらくはグランドで、その余韻にひたろうや」 1度に18個が売れた。車座になって弁当を食べている人たちから、「うまい」という声が聞こえてきた。 大河内雄太は予定通り、芝公園のビル群のなかにいた。地周りのヤクザが心配なので、道行く人に小声で呼びかける。ハッチバックの荷台には、弁当が山積にされている。もちろん、見本品も置いてある。 「特別限定の弁当が1000円ですよ。おいしくて、ほっぺが落ちちゃいますよ」 ビルから出てきたサラリーマンがのぞきこみ、次々に弁当に手を伸ばす。大河内は、好調な出足に満足していた。 ※ダントツ営業の知恵 営業活動のバリューチェーンとは、ターゲティング・アクセス・ディテーリングである。しっかりとしたターゲティングなしには、営業活動ははじまらない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年02月22日 03時17分38秒
コメント(0) | コメントを書く
[営業マン必読小説:どん底塾の3人] カテゴリの最新記事
|