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カテゴリ:闘魂 コンバット史恵さんの巻 (完結済)
そこまで思い出したところで電話がまた鳴った。今度は携帯のほうだ。史恵は辺りを見回して、のろのろと昨日からカバンに入れっぱなしになっている携帯を取り出した。ディスプレイを見ると潮田さんからだった。
なんだろう。また昨日のことで誰かに責められるのは,真っ平だ。昨日は雰囲気に呑まれて口が出せなかった潮田さんも、今日になっていろいろいいたいことが出てきたのだろう。きっと、花園一のしまり屋の潮田さんのこと、壊れてしまったバッグのことで何か一言あるのだろうか。一言では済まないかもな。どんなときでも責任のありかを明確にして、数字でけりをつける主義の彼女のことだから、弁償させられるのかもしれない。 あのバックは壊したんじゃなくて、壊れたんだけどなあ。男が尻餅をつくきっかけはバックのチェーンがプチン。外れたのではなく、バック本体にくっついているチェーンの留め金が二つに割れたんだもん。金属がプチンといって割れるなんて何たる粗悪品。でもまあ、そのおかげで、状勢が逆転したのだけど… 携帯に出るのは嫌だったけど、後回しにしても着信履歴は残る。またかかってくるか、こちらからかけなおさなくてはいけない。だったらいっそのこと、今出てしまおうと、覚悟を決めて史恵は着信ボタンを押した。 「ハイ、もしもし。」 さっきとは違って、自分でも意外な元気な声が出た。 「潮田です。史恵さん、昨日は大変だったけど、あれから大丈夫だったかなあと思って。」 もうひとつ意外が重なって、潮田さんの声にはいたわりがこもっている。彼女は続ける、 「私、昨日はいろいろびっくりして大事なことを忘れてしまって。」 あ、来たかも。賠償話。 「そおいう悪い人が入るって話には聞いてたけど、目の前で友達が強盗に教われるなんて、思っても見なかったから、本当に驚いて…。それに、史恵さんが、なんかジムで空手みたいのしてるのは知ってたけど、あんなに強いとは。」 「はあ。」 「史恵さんに荷物持たせて、その荷物目当ての強盗に襲われて。あんな派手で目立つバックだからだって、夕べ夫に怒られたのよ。 それに、あんなふうに壊れるなんて、安物にしてもひどすぎる。値切り交渉が簡単でヘンだとは思ったけど、あんなに粗悪なもの売るなんて。今度、あのバッグ屋にいったら文句言ってやらなくちゃ。」 あんたが買い物したのは、バック屋じゃなくてバッタヤでしょ。「冷静な」史恵はそんなことを思いつつも、予想とはあまりにも違う流れに何もいえない。潮田さんは、ちょっとわざとらしく息継ぎをして、改まった口調で、 「バック取り返してしてくれてありがとう。私のせいで危ない目にあってごめんなさい。あなたを危ない目に合わせて、そんなことじゃあすまないのはわかってるけど、今度お詫びのしるしにお昼でもご馳走させてね。」 「…………!」 史恵は、いえ、とか、どうも、こちらこそ、とかしどろもどろになってしまい電話を終えた。自分が何を言ってるのかはわからないけど、顔が笑顔になっているのは自分でもわかった。 感謝された!なんか、やっと報われた。あの、潮田さんがご馳走してくれるなんて。夫が誕生日にバラの花束もって来るぐらいありえないことのような気がする。予想外すぎて喜んでいいのか戸惑ってしまうところも似てる。いや、うれしい。誰かがやっと認めてくれた。めないで感謝してくれた。確かに判断は甘かったけど、無茶だったけれど、がんばったんだから。パンチもキックもダメダメだったけど、戦って勝ったんだから。 史恵はソファーから立ち上がった。やっぱり出前はやめよう。元気が出るようにビタミンのたくさん取れる野菜料理を作らなきゃ。子供たちはなんといっても健康が第一だし、私も若くはないんだから。ハードな運動に耐えられるようにエネルギー仕込んでおかなくては。冷凍のばら肉があったはずだからあれで豚の角煮を作ろう。ゼラチン質が関節にいいからきっとトレーニングに向いてるわ。明日も、ばっちりブルースに鍛えてもらう準備、準備。 もう襲われるのは嫌だけれど、もし今度自分の身を守るときは、もっと綺麗なパンチを繰り出せるようにしなきゃ。銃口を回転しながら発射していく弾丸のイメージが頭に浮かぶ。そして、今度こそコブラ。いや、それとも一番得意ななヒールキックでで爆破かな。そんなことを考えながら、史恵はきりりとエプロンを締めて冷蔵庫をあけた。 ちょっと予定が狂って、思ったより早くUPができました! この話はこれで完結です。お付き合いいただいてありがとうございました。 にほんブログ村 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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