(3)行け!行け!花園!
はじめから読む人はコチラから ○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○● はじめにー「行け!行け!花園!」 (3)行け!行け!花園!話はちびっ子スポーツ大会に戻る。本日の催しは、学校の運動会とは違うので、あらかじめの練習を必要としない、障害物競走、お玉にボールを載せたかけっこのリレー、大きな麻袋の中に入ってジャンプで進むポテトサックレースなど、スポーツというよりゲーム感覚で楽しめる競技が中心である。婦人会の連絡網のグループ分けを下地に、住んでいる地域ごとに4チームに分かれた子供たちは、予想外の冷え込みで縮こまる大人たちを尻目に競技を楽しんでいる。 まずは、日本人住人も多く、開催地のため該当年齢の子どもがほぼ全員参加の豪豪花園チーム。市街地にあるマンションで、400室のうち日本人占有率が90%の魅力広場チーム。日本人学校の近くで市外に抜ける高速道路入り口に近い最近人気の新科学技術開発区チーム。そしてこれらのどれにもあたらないその他の区域チームである。 ゲーム感覚とはいったものの、子ども達はみな真剣。パパやママが見て応援してくれているので力がいっそうはいる。小さなコミュニティイに暮らしているので学年を超えた子供同士のつながりも強く、子どもらは、それぞれのチームごとに力を合わせて競技に取り組んでいた。 お昼も近くなるころ、ちょっと息抜きをかねた参加者の弟や妹、小学生以下の子供たち参加の三輪車や補助輪つき自転車でのレースが行われた。声援に驚いて泣き出してしまう子や、反対方向に進む子、お姉ちゃんに手を引かれて参加したら、付き添いのほうが本気になってしまい、お姉ちゃんに引きずられるように三輪車ごとゴールに引っ張り込まれる男の子など、勝敗以外の見所がたくさん。観客はひとしきり和んだ。 そしてついに、本日の勝敗を決める障害物リレーが始まった。この時点で、トップは同点で魅力広場と科学技術開発地区。しかし、リレーの結果次第では残りの2チームの逆手優勝もありえるという、どれが勝ってもおかしくない状況で、子供も大人もさらに応援に力が入りだした。 第一走者、第二走者、三週目に入って差がつきだし、トップは科技チーム。それを追い上げるのが豪豪花園チームである。走者は中村宗一郎、3年生。いまどきちょっと珍しい、スポーツ刈りに日に焼けた顔。一昔か、二昔前の男子小学生を絵に書いたような少年である。ユニクロのTシャツ姿が惜しい。白のランニングが何よりも似合う宗一郎は、参加最高学年の4年生が豪豪花園には少ないため、3年生ながら他チームの4年生に混じっての参加である。見た目は一回り小さいが障害物のこなし方ではまったく引けをとらない。 中村が追い上げ、トップのの科技チームがこのままでは追いつかれてしまう。科技チームの子どもや父兄が、科技チーム、カギチーム!と自然と声をあげる中、だれが言い出したのか豪豪花園チームの応援団からも、「ゴー!ゴー!ファーエン!ゴー!ゴー!ファーエン!」という声が上がった。「GO!GO! 花園!」である。レースは二者の争い、豪豪花園チームは勢いをつける。 日本企業の駐在員になるようなものには根がまじめなのが多いのか、それとも娯楽の少ない暮らしをしているせいなのか。子供たちの純粋な競争心とあいまって、応援合戦は異常なまでに盛り上がった。開催地で参加者も応援の家族も多いので、「GO!GO!花園!」の声援が、一番大きく響く。「GO!GO!花園!」「ゴー!ゴー!ファーエン!」中村はついに科技チームの走者と並んだ。「GO!GO!花園!」「ゴーゴーファーエン!」中村、あと数センチの差。「GO!GO!花園!」「ゴーゴーファーエン!」 日曜の午前中に何の騒ぎかと見物に来た欧米住人は、あまりの白熱ぶりに目を丸くしている。普段は礼儀正しくて静かな日本人たち、今日はどうしちゃったんだろう。「GO!GO!花園!」「ゴー!ゴー!ファーエン!」 結果は、網くぐりを小柄な体を生かしてすばやく通り抜けた中村がトップに立ち、最後の直線もそのまま振り切った。開催国がメダル独占のオリンピックのごとく、みごと豪豪花園チームの勝利。見事な逆転劇であった。 そして、誰の耳にも残ったこの日の声援から、豪豪花園はこの日から晴れて「GO!GO!花園」になったのであった。行け!行け!花園、イケイケナ花園?ではそろそろ行ってみましょうか?**************この序章はこれでおしまいです。もっと読みたい人はオムニバス形式なのでお好きな話に飛んでください。ランキングに参加しています。押していただけると励みになります。にほんブログ村