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bunakishike
折に触れて聞いた音楽の感想をだらだらと書いています。
音源は主に海外サイトからダウンロードしたハイレゾで、その他観たコンサートや映画などの感想を綴っています。
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現代の音楽展2009の第一夜「唱楽lll」を東京文化会館小ホールで聞く。
「唱楽」とは読んで字の如く「合唱音楽」のことだと思います。
この催しものの第三回目は現代の音楽展の一環として行われました。
副題に「~現代児童合唱の領域」とあるように、初演3曲を含む全7曲で休憩をはさんで約2時間、とても充実した演奏会でした。 |
第1部はNHK東京児童合唱団の演奏でした。
古い人間には東京放送児童合唱団のほうが通りが良いと思います。
2003年に現在の名前に改称されました。
ここの団体は小学生2年生から高校生2年生までで構成されています。
基本的には中学2年で卒団となりますが、卒団生を中心としたユースシンガーズ(中学3年~高校2年)という団体を合わせて約200人の団員を要しています。
■とても面白い藤井喬梓「銀河鉄道の夜」
最初は、藤井喬梓(たかし)氏の旧作「銀河鉄道の夜」(1994)から1,2,5曲が演奏されました。
蒸気機関車の音と思しき「シューシュー」という音や、足踏み、手拍子、それに膝をたたいたりといろいろ賑やかでした。
第1曲の「雪渡り」は冬のカキーンと冷えた夜に雪が降り積もる様子が「ラルラル・・・」という言葉とともに描かれていて、目の前にその情景が浮かぶようでした。
第2曲の「かしわばやしの夜」は満月の晴れた夜に繰り広げられる動物たちの饗宴の様子が描かれています。
ここでは、足踏み、膝うちなども交え、大いに盛り上がります。
第3曲「銀河鉄道の夜」は舌を鳴らす音で始まります。
どの曲も大変面白く、これはぜひ全曲を聞いてみたいのですが、京都中央少年少女合唱隊による録音は入手困難なようです。
続いては、当日のプレミエの1曲池田悟のダンテの「神曲」煉獄編から第8歌 「テ・ルーキス・アンテ」の作曲者自身の抄訳につけられた音楽です。
作曲者によるプログラム・ノートでは昔の偉大な作曲家に倣った自身へのレクイエムだと述べられています。
最初は、中世の宗教曲のような雰囲気ですが、途中天上から降り注ぐような女声のソロが終わった後、「二人の天使」が精霊たちの頭上に降りてくる場面から雰囲気ががらりと変わって何やらグロテスクな光景を見るような気持ちにさせられ、違和感がありました。
歌詞を見るとそのような場面を描いているわけではないのに、私がそのような感情を持ったのは何故だったのか、いまだによく分かりません。
■視覚も満足「空がおれのゆくところへついてくる」
第1部最後の曲は、この団体の委嘱作品、間宮芳生の合唱のためのコンポジション第15番「空がおれのゆくところへついてくる」(2002)でした。
これは間宮お得意のシアターピースの一種で飯塚励生の演出が入っています。
最初、舞台中央に一人の少女が出てきて、両手を体の前にV字型に広げています。
後方に待機していた、その他の団員達が舞台に進み、全員が片手を前方斜め上方にあげるところから始まります。
「空がおれのゆくところへついてくる」はアメリカの先住民族チッペワ族の口承詩です。
第2曲「火の神の誕生」は古代アルメニヤ族の口承詩で打物を使用し、ことばのかけ合いやお囃子風なメロディーが組み込まれています。
「きいろい蝶たち」もアメリカの先住民族のホピ族口承詩につけた音楽で、「黄色」だったか「黄」だったか忘れましたが、この言葉を執拗に繰り返していたところが印象的でした。
間宮特有のエネルギッシュな曲で、シアターピースとしても大変面白い演奏だったと思います。
NHK東京児童合唱団は全体を通じてとてもレベルが高く、安心して楽しむことができました。
第2部は多治見少年少女合唱団。
指揮は合唱界の重鎮田中信昭。1986年よりこの団体の音楽監督をなさっているそうです。
最初は一柳慧作曲まど・みちおの詩による「三つの歌」(1999)。
今回演奏された中で最もまともな曲だったと思います。
この曲はピアノではなくマリンバという一風変わった伴奏がつきますが、マリンバの鋭くない優しい音色が曲の良さを一層引き立てていたと思います。
マリンバの池永健二氏は愛知芸大大学院に在籍中ですが、早くから活躍している逸材のようです。
■リズミカルでユーモアの感じられる「しりとりうた」
2曲目は長谷部雅彦の「しりとりうた」(2008)でした。
二群に分かれた合唱団が互いに言葉のやり取りをするという構成になっています。
詩は作曲者自身が広辞苑を繰りながら、集めた言葉をしりとりにしたものです。
最初は物、続いて動物、国の名前、人名と続きます。
たとえば「リンゴ」の場合には「リンゴ、ゴ、ゴ、ゴ」というように最後の文字を繰り返して、次の言葉につなげています。
これは曲がリズミックで前進するイメージを聴衆に植え付けるのに成功していました。悪くないアイディアだったと思います。
途中ゆったりとした部分を経て、後半またリズミックな調子が戻ってきます。
最後は「アインシュタイン」とやってしまって、メンバーが「ん?」といってお互いの顔を見つめてしまうという演出が笑いを誘っていました。
■夜道の風景が見えるような「青い夜道」
続いては、高原宏文の田中冬ニの詩につけた「青い夜道」(2008)。
暗い夜道を、修理した時計風呂敷に包んで背中に背負った少年が家路に就く様子が描かれています。
時折聞こえてくる、時計の「ぼむ。ぼうむ。ぼむ」という時報の音がリアルに響きます。
最後は野平一郎の「ある科学者の言葉」(2004)。この合唱団の委嘱作品です。
「児童合唱とピアノのための」と題されていることから分かるように、ピアノの比重がかなり大きい曲です。
そのためか、通常の伴奏ピアニストではなく邦人作曲家を得意とする中嶋香をピアノに迎えての演奏でした。
合唱をピアノが伴奏しているという感じではなく、ピアノソロの合間に合唱が入るような構成になっています。
詩はアインシュタインの言葉で構成されたト「アインシュタイン150の言葉」より作曲者が再構成したもの。
「自分は天才ではない。ただ人より長くひとつのことと付き合ってきただけです。」から始まる、アインシュタインの含蓄ある言葉が並んでいます。
印象的なのは、ルーズベルトに原子爆弾の開発を進言したことが間違いだったというあたりです。
ピアノが急速調の短いフレーズを繰り返すところで、聞いている方も心が凍ってしまいそうな気持ちになってしまいました。
最後にまた、「自分は天才ではない。・・・」という言葉で締めくくられます。
最後に合同演奏で三善晃編曲の「夕焼け小焼け」で締めくくられました。
指揮者の田中が語るところによると、三善は昔の人間とカラスが共生できた時代を思って編曲したそうです。
編曲者の言葉通り、昔のいまでは忘れてしまった農村の夕焼けという原風景を思い出させてくれるような編曲であり演奏だったと思います。
ということで、大変楽しめた演奏会でした。
しばらく遠ざかっていた合唱の世界の素晴らしさを再認識した次第です。
現代の音楽展2009第一夜 「唱楽lll ~現代児童合唱の領域」
第1部
1.藤井喬梓/児童合唱のための組曲「銀河鉄道の夜」
2.池田悟/テ・ルーキス・アンテ 児童合唱とピアノのための※
3.間宮芳生/合唱ためのコンポジション第15番 児童(女性)合唱のための《空がおれのゆくところへついてくる》
第2部
4.一柳慧/三つのうた
5.長谷部雅彦/二群の児童合唱のための「しりとりうた」※
6.高原宏文/児童合唱のためのファンタジー「青い夜道」※
7.野平一郎/児童合唱(または女声合唱)とピアノのための ある科学者の言葉
アンコール
三善晃/夕焼けこやけ
NHK東京児童合唱団 指揮金田典子(1,2)、加藤洋朗(3)、前田勝則(ピアノ)
多治見少年少女合唱団 田中信昭(指揮)、池永健二(マリンバ)、中嶋香(ピアノ)
2009年2月1日 東京文化会館小ホール
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Last updated
2009年02月06日 22時10分10秒
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