カテゴリ:お山に雨が降りまして
野坂が戦災孤児という虚構で、知名度を上げてきたことも、直木賞作家となったことも、平行して彼がその餓死させた妹について、実は餓死へ追い込みもし、またその体力が下がった時期に虐待を繰り返したことも他ならぬ野坂昭如自身が粛々と告白しているのを、何度も読んだ記憶がある。彼自身は、あの宮崎駿のアニメで国民的な認知を得た節子に優しく野辺送りした少年ではさらさらなく、現実には幼くして死んだ節子の呪いに怯える小心な中年男であっても、いずれも野坂の作品の価値を毀損するものではない、と思う。
実妹には、結構酷い加虐的な兄だったりしたもので、これが娘を通じて過去のその非道さなどは良く理解できたりする。子供をもうけることは、男にとっては相当なレッスンだ。しかし、世の中には子供がいてさえも、レッスンとして機能しない事例も多い。そんな自身の僅かな体験をつうじて透かしてみる作家野坂昭如は、事実として大嘘つきではあっても、どこか人間的な意味合いで救いを感じさせてくれる。人の世を、悲惨に貶めて平然としている神もほとけさまの方も、それほどたいしたことをしでかしてくれていると思えぬからだ。 ましてや、神仏ならぬ人間さまがさほど「でかしたこと」ができる筈もないのだ。
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