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カテゴリ:★★★★★な本
伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡。触れ合うことも、語り合うことさえできないのに…大切な人にそっと囁きかけたくなる物語です。 <感想> ★★★★★ 本書は小川洋子さんの最新長編です。 長編に関してのみを言うなら『博士の愛した数式』で癒し系路線に転向して、 その第二段として『ミーナの行進』があったように思います。 それ以降、三 年ぶりの長編である本書は、静謐が支配する独特の世界で語られる従来の 小川ワールドと、この二作で培った癒し系路線がほどよくミックスされている ように感じました。 さて、この作品はチェスの才能をもつ少年が主人公です。 エキセントリック な彼や、彼をとりまく人々について丁寧に語られています。 いつもながら物 語の舞台は場所も時代も特定されていませんが、私は70年代の東欧をイメ ージして読みました。 後半になるとリトル・アリョーヒンというチェスを指す等身大の人形(機械)が 登場してきますが、このあたりからは小川ワールド全開です。 どことなく悲 しい読後感ですが、この作品には相応しいラストです。 ちなみに、チェスに関しての知識が皆無でも読みこなせます。 すごく極端 な言い方をすればチェスを知らないほうが楽しめるかもしれません。 主人 公や相手が指す一手、一手を詩的に表現する様は秀逸で、チェスというゲ ームの本質が見事に表現されているように思えます。 さまざまなキャラクターが出てきますが、個人的には主人公の才能を見抜き それを開花させるマスターが一番好きです。 常に謙虚で相手の立場に立ち 粘り強く接していく。 ゲームに勝つ手段ではなく、その哲学を説く。 つまりは それが教育なのではないだろうか?などと感じました。 モノクロの写真に写ったチェスを指す人形。 その名前も由来もわからない 「物」にはどのような物語が隠されているのか?そんな読み方をすると二度 三度楽しめます。 文藝春秋の特設サイト 「猫を抱いて象と泳ぐ」 冒頭の数頁を「立ち読み」できます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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