カテゴリ:ショートショート
平成29年11月30日(木) 午前4時起床。曇一時小雨。夜は寒くなりました。 リーマン仕事も木曜になればあと一日、という気持ちが昂じます。午前、来春に迫る案件の議論。午後は判子押しと調べ物。定時に会社を出ました。残業、前のポストのときもそれほど多くありませんでしたが、この4月に異動してからは、居残りは全くといっていいほど無くなりました。早く帰って走るにうってつけです。それでもこの歳になると、冬の日暮れ、ランが億劫になります。まっすぐ帰宅しましたが、重い腰を上げることが出来ませんでした。写真は昼食、毎度のサンドイッチと野菜ジュースです。夕刻までエネルギーの保たずはこれがせいなのかもしれません。 ![]() 午後6時、ネクタイを外しました。NHKのラジオニュースを聴きながら身体を湯船に伸ばしました。酒の待つこの時間も、至福といえば至福です。その晩ご飯はトマト煮。安ワインを抜栓しました。 ![]() チーズをつまんでいたら、早速やって来ました。彼、乳製品が好物です。この目に見つめられると、間食をさせぬ掟も今日だけは、ということになってしまいます。1欠片だけだぞ。 ![]() 食事の後も妻は猶台所。ん?いい香りがし始めました。ああこれか。柚子でした。見た目はイマイチですが、醸す匂いは一等です。 ![]() これに使ったのか。チリメンの酢物に混ぜたのでした。これを当てにもう一杯もらおうか。でも太るな。止めました。明日の楽しみに取っておきます。 ![]() さて、いよいよ書くことが無くなりました。仕方がない。ョートショートを一つ。 「片腕を失った理由」 随分前の話です。仕事で大分に出張した帰り、鈍行列車に老人と同席しました。日豊線は窓外に海の見えるところもありますが、ほとんどが山間を走っています。本を手に取りました。活字を追い始めてすぐ 「ほらよ」 黒く節くれだった左手が蜜柑を差し出してきました。隻腕でした。それに気がついて、すぐさまそこから目を逸らせました。彼の眼が二ヤリ、早く受け取れと語っていました。初冬の昼下がり、車窓に冬の陽が射し込むポカポカ陽気。皮をむき食べ始めたら 「兄さん、どちらまで」 声を掛けられました。それがきっかけとなり、問わず語りを聞く羽目になりました。 おたく、どちらまで。ああ、延岡な。で、仕事は?おお、税務署な。堅い仕事ですわな。出張帰り?パリッとしちょりますなぁ。私なんか生まれて此の方、ネクタイなんて締めたことがありませんな。いえね、私、中学を出て色々ありましたよ。あなたの年頃は、宇目で牛の牧場を失敗しましましてね。昭和30年代、牛乳を売って一儲けする腹がうまくいきませんでしたよ。それから馬方をしたり山師をしたり。いいこともありましたが、浮き沈みの果て、今はまちのはずれに小屋を建て、かかあと二人糊口凌ぎですわ。兄さんは奥さんがおいでで?ああそうですか、二人子供さんがあるんですね。家族は大切にしないといけまんせんよ。私はね、馬喰をして羽振りがいいとき、一人娘に縁談がありましてね。相手は百姓の長男なんですわ。もちろん断りますわな。当時も農業は辛い仕事。手塩に掛けた娘を水呑なんかにやりたくないのが親の気持ちでしょうが。ところがですよ、若い二人はとんとん拍子。惚れ合ってにっちもさっちもいかなくなってしまいましたね。腹が立って娘を叱りつけ、結婚まかりならん。捨て台詞したんですよ。娘は手塩にかけたというと大げさですが、鳶、いや烏が鷹を産むとでもいいましょうか、親に似合わず、まじめ一途、勉強して看護婦になったんですね。銭もかかりました。しかしですよ、それが仇となって、勤める病院から眠り薬をくすねやがった。心中未遂ですよ。早くに見つけて事なきでしたがね。警察へは市会議員に中へ入ってもらい穏便に済ませましたよ。病院の院長には叱られましてね。首になりました。まあそんなすったもんだあって仕方がない、養子に迎える算段になりましたよ。見えもありましてね、派手な祝言をし、先方との約束もあり、新宅を造ってやったんですよ。なにね、銭を出すのは私ですが、普請は娘夫婦任せ。出来上がって訪ねたら 「お父さん、どうですか、この床柱、無節なんですよ」 馬鹿養子が自慢げに言うんですよ。空いた口がふさがりませんでした。案の定、1年たって娘が 「お父さん、家の中を白い小ハエが舞うのよ」 シロアリでした。材料、海に浮かべて引っ張ってきた外材を使うからでした。叱りつけてやりましたよ。何が無節だ。米松の善し悪しがわからんのか。根太の修理に金がかかりました。しかし、一度入ったシロアリはいけませんや。手当のしようがないんですわ。さてね、その養子ですが、勤める会社、大層人使いが荒く、辞めたいと言い始めたんです。養子に迎えた折、私の知り合いに頼みこんで雇ってもらった会社です。私の面目が潰れますわな。とんでもないと、また叱りつけたんです。そうしたら、もう孫が二人いたんですが、奴ら、二人を連れて家を出やがった。探しましたよ。そりゃーもー四方八方、手を尽くしてね。養子の実家に怒鳴りこみ、隠さず早く出せ、悪態をつきました。匿ってやしないかと疑いましたね。でも見つかりませんでしたよ。1週間も経った頃でしょうか。夜遅くに電話がリンリンなりやがって。受話器を取ったかかあが泡を吹きましてね。それで何があったのか判りました。今度は子どもを道連れ、無理心中でさぁ。参りました。これくれえのことで死ぬなんて。しかも子どもを道連れにしてですよ。合点がいきませんわな。わけーもんは弱い。多分、何もかもあの青びょうたん、養子が悪いんですわ。我慢をようせんようなやさ男でしたからな。なんもかんもねーとはこのことですわ。白蟻の入るを知らぬとは、とんだ見当違いの婿をもらったと後悔しましたよ。え?この右腕?そうなんですよ、これを落としたのもそれがせいといえばいえなくもありません、はい。しばらく不自由を味わって、この頃、漸く自分が頑なだったと思うようになりましたね。悔やんでも悔やみきれません。生き死にの痴話も濫觴は些細なことから、ですわ。終わってしまったこととはいえ、おかげで態です。万事、因果律ですな。おっと、とんだ身内話をしてしてしまいました。兄さんのネクタイを見て、つい本気になってしまいました。いえね、兄さんに似ているんですよ、その養子が。おっと、もう延岡ですよ。ここで降りるんでしょう。私は乗り換えて高千穂のほうです。ほれ、みかんをもう一つ上げますよ。さようなら。 一期一会、相席老人の話、引き込まれてしまいました。聞き終わって虚言癖かと疑いました。しかし、片腕がそのせいという彼の悔み節、加えて自業自得の吐露。嘘偽りなしに思えました。二つ目のみかんも冷たい味がしました。腕を落とした訳を訊いてみたかったな。 今日の一句 梅の先高みの百舌や霜の降り 今日のラン なし 今日の酒 冷酒5勺 グラスワイン3杯 ウイちゃん1ショット 焼酎お湯割り1杯 今日の写真もトラです。おーよしよし、お前が一番だ。ブラッシングしてやるぞ。
![]() その後、夜長を彼と二人、カラヤンオムニバスを楽しみました。カルメン幻想曲、カラヤンタクトが絶品。聴かせてくれました。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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