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カテゴリ:邦書
![]() 西尾維新の代表作『戯言シリーズ』の外伝。 殺人鬼集団「零崎一賊」に属する一人で、自殺志願(マインドレンデル)の使い手である零崎双識を描いている。 粗筋: 無桐伊織はごく普通の女子高生だったが、ある日、正気を失ったクラスメイトにいきなり凶器で襲われてしまう。伊織はクラスメイトを返り討ちに。正当防衛だったとはいえ、人を殺した事にショックを受ける。 その時、殺人鬼集団「零崎一賊」に属する零崎双識が現れ、伊織に対し「君は自分と同じ殺人鬼になった。自分の妹となり、零崎一賊になれ」と訳の分からない事を言い出す。 伊織はその場から逃げ出し、自宅に戻る。 自宅で待っていたのは、「零崎一賊」と敵対する殺し屋集団早蕨三兄妹の一人早蕨薙真だった。薙真は、伊織を敵対する零崎一賊の一人だと勘違いしていて、伊織の家族を殺害していた。 ますます訳が分からなくなる伊織。 そこにまた双識が現れ、薙真とのバトルを繰り広げる。伊織はまたもやその場から逃げ出す。 双識は、実は弟分である零崎人識を探す旅の途中にあった。 伊織は人識と出会い、零崎として覚醒。零崎一賊の一員となり、早蕨三兄妹との死闘に敗れた双識の凶器を受け継ぐ。 解説: ……やっつけ仕事で製作された対戦RPGがやっつけ仕事でアニメ化され、それがまたやっつけ仕事で漫画化され、更にやっつけ仕事でノベライズ。 そんなものを読まされた気分。 対戦RPGやアニメや漫画が大好きで、そういった世界に説明抜きで入れる者なら堪らなく面白いのかも知れない。 が、そういったものに針の先程の思い入れの無い者からすれば、ひたすら退屈。 というか、訳が分からない。 こちらはSFやファンタジーはそれなりに読むので、フィクションで描かれている空想の世界や設定が一から十まで全て説明されていないと全然入り込めない、という事は無い。 それでも、本作で描かれている世界や設定は理解不能だった。 本作は外伝だから仕方ない、読む順番を間違えた、という考えも出来なくはない。 が、たとえシリーズ作でも第一作から順に読み進み、その後に外伝を読まないと全く理解出来ない(正確には興味を持てない)、というのはシリーズ作としては失敗だろう。読む側がシリーズ第一作から入手出来るとは限らない。偶々入手したのがシリーズ作の外伝だった、という場合もあるのだ(カバーには、本作がシリーズ作の外伝である事を知らせる表記は無かった)。 作中で描かれている世界や設定が理解し難くても、ストーリーや登場人物が魅力的であれば、何とか読み進められる。 残念ながら、いずれの条件も満たしていない。 本作には、ストーリーといったストーリーは無い。 奇妙な性癖を持つキャラが現れては、奇妙な凶器を駆使して互いに対戦。勝ち、負け、もしくは引き分けになり、キャラは次の対戦へと進む。 対戦の描写はまさにRPGで、解説本の如くルールや凶器に関する説明があった後、バトルが繰り広げられ、時折解説が入る。ゲーム好きには常識に沿った対戦の描写なのだろう。が、ゲームをしない者からすれば、臨場感に乏しい。 ラストに至るまでに「衝撃の真相」や「どんでん返し」がある様だが、最早どうでも良くなってしまう。 「零崎双識の人間試験」というタイトルだけあって、双識は出会う人物に対し「合格」だの「不合格」だのと決め付けるが、その基準というか、そんな事をする根拠が不明。これもまさにゲームの世界。 登場人物は、いずれも名前だけ個性的。「後はイラスト(非常に漫画チック)が挿入してありますので、読者が個々で想像して下さい」といった感じ。ゲームやアニメや漫画に慣れ親しんだ者ならそれだけで充分想像力を膨らませられ、空白部分を埋められるのだろうが、そうでない者からすると紙人形同然。 性格描写も一定していない。 双識は最初は無敵のキャラの様に描かれているのに、弟分の人識が登場すると一気に雑魚に近い扱いになり、あっさり死亡。何故タイトルになっているのかが不明。 人識は、呼吸する様に人を殺す人物という設定だが、それ以外に何の特徴も無く、登場するのと同時に小説そのものが一気にパワーダウン。 伊織は他人に突き動かされて行動するだけ。当初は「殺人鬼となったお前は零崎一賊だ」という言い付けに納得しないが(当たり前)、最終的には零崎一賊の一員になる事を受け入れる。が、その心情の変化の過程がよく分からない。 ストーリーが破綻していて、登場人物に特に魅力を感じられなくても、文章自体が面白ければ、まだ小説として読める。 が、本作は、著者が対戦ゲームをしながらその過程を口述したものを、また別の者が書き起こしたかの様な文体。 登場人物の視点によるダラダラした、独りよがりの描写が延々と続く。一句一句読むには辛く、読み飛ばしてしまう。 300ページある書籍なのに、内容的にはスカスカに感じる。 本作(そして本シリーズ)は、生と死がテーマらしいが、生も死も、平和ボケした日本人らしくゲームの如く軽々しく扱う。 登場人物は人をバサバサ殺し、自らも死んでいく。 にも拘わらず、悲惨さはあまり無い。 「所詮紙面での人殺し。実際に人が死んでる訳じゃないから、何も大事にしなくてもいいじゃん」と、著者自身が割り切っているかの様。 同じ平和ボケした日本人の読者なら、このゲーム感覚的な割り切りは共感出来るのだろうが、海外の者、もしくは日本の平和ボケ教育を受けていない者からすれば、理解不能。 小説は、どんなにつまらないものでも、どんなに好みに合わないものでも、ストーリー・登場人物・文体のいずれかにおいて褒められる部分がある筈。 本作は例外中の例外。 褒められる部分がいくら探しても見付からない。 シリーズ第一作を入手し、シリーズを読破した上で外伝である本作を読み直せば、本作の内容を理解出来、褒められる部分を見出せるようになるのかも知れない。 残念ながら、本作を読み飛ばした時点では、そんな賭けに出てみよう、とは思えない。 とにかく自分の嗜好から外れた小説。
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Last updated
2015.10.29 12:34:06
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