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碁法の谷の庵にて

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2011年08月10日
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カテゴリ:法律いろいろ
 私は駆け出しそのものですが、実務家的な視点から、書かせていただきます。


 「弁護士に法律相談に来る人は何を求めてくるか」

 という問題からまずは考えてみてください。
 弁護士の法律相談は、多かれ少なかれ金もかかりますし、手間もかかります。弁護士事務所は敷居が高い、というイメージを持たれがちであることも指摘されます。
 それでも法律相談に来るのはなぜなのでしょうか。


 別に難しい答えではありません。
 相談者は、「助けてほしい」のです。
 どうすれば自分は助かる、言い換えれば自分にとって一番良い、得な解決が導けるかを知りたいが故に、弁護士に相談に来るのです。
 「どうやったら助かるか」ではなく、損得勘定を抜きにした法律の建前論が知りたいから相談に来た、という人は、私自身もう何十件も法律相談をし、あるいはほかの弁護士とともに立ち会った法律相談の中では1件もありませんし、聞いたこともありません。別にそういう相談に来る事自体は構わないのですが。(相談料はきっちりいただきます)




 では次の問題です。

「裁判で相手と争うことには、どのようなリスクがあるか」

 法律的な建前を押し通す最強の手法が、裁判です。裁判による救済が、まあ日本における一つの救済の究極形態と言ってもいいでしょう。
 しかし、です。裁判で争うことには、多かれ少なかれリスクが伴います。ざっと思いつく限りでも、以下の通りのリスクがあります。

一、勝てる保証がない
 神の目から見た真実の通り裁判官が認定してくれるとは限りません。証拠不十分などで神の目から見た真実と裁判で認定される事実が違ってくることは避けられないからです。
 もし裁判で負けたら、相手の裁判費用とか、遅延損害金とか、そういったものまでまとめて負担しなさい、と言われる可能性が高くなってくるのです。

二、勝ったとして回収できる保証がない
 裁判に勝ったとしても、裁判の中身を実現するには大体の場合相手の財産に執行しないといけません。
 もし相手に財産がなければ、裁判に勝ったとしても手に入るのは判決文の紙切れ。メモ用紙か見せびらかしの材料にでもするくらいの価値しかありません。財産がなくてもとにかく訴訟で自分の法的正当性を認めてほしい、ということなら別ですが、何とか金銭で生活を立て直したい、損害を埋め合わせたいという場合にはこれも当然死活問題になります。
 相手から金を回収したい、という相談が持ち込まれたら、相手が有名企業や公共団体でない限り、弁護士は勝てるかどうかと同じくらい相手に金があるかを気にするのです。

三、相手との関係が決定的に決裂する
 裁判というのは最終的手段です。行ってしまえば、「紛争が行きつくところまで行ってしまった」状態です。
 そうすれば、相手との関係は修復不能になる恐れが高くなります。取引先であった場合などは、もうそれ以降の取引を諦める覚悟が必要になるという訳ですね。
 また、相手が一部責任を認めている、あるいは責任は認めないが見舞金など出してあげる、和解するのであれば家族その他がお金を出してあげるよ、という場合などに、強硬手段に出たことで、もらえるはずだった見舞金すらもらえなくなるというリスクがあります。(子供の不法行為などでなければ、家族に賠償責任はありません)

四、金がかかる
 弁護士だって霞を食っては生きていけません。
 弁護士による個性はあるにせよ、依頼を引き受ける段階で着手金、裁判になって勝ったら成功報酬をもらうというのが基本です。
 出張するなら日当、その他の調査費用、訴状の類に貼る印紙や切手代なども依頼者に請求が行きます。
 金額にもよりますし、金銭メイン請求である限り、着手金を除いた弁護士報酬が取った額より多くなることはほとんどないと思いますが、ウン十万円単位で金銭がなくなるというリスクは避けられません。
 被告側である場合は勝ってもその金銭は飛んでいきますし、原告側である場合でも、裁判に勝った場合に弁護士費用が損害として相手に賠償してもらえるジャンルは限られています。
 この上で裁判に負けたらもう目も当てられません。弁護士費用だけかかって一円も得しないのです。

五、手間がかかる
 裁判をするとなれば、弁護士に依頼さえすれば、後は任せておけば・・・とはいくとは限りません。
 弁護士としては、何かと来てもらって、方針を確認したり、事実を確認したり。裁判の期日には来てください、ということもありえます。 時間は年単位でかかるような件は少数でも、本人にも来てもらって何とかしてくれ、追加でこの点について教えてくれと要望することは多いのです。
 自分で訴訟を起こす、あるいは対応することは法的タテマエとしては可能ですが、それも難しいでしょう(それが楽ではないケースが多いからこそ、多くの人が弁護士を依頼するのです)。


 ぱっと思いつくだけでも、これくらいのことがあります。
 もちろん、弁護士はこういうデメリットがありえることはとりあえず説明した上で、依頼者に方針の決定を求めますし、弁護士としてはその責任の下で、こうした方がいいんじゃないか、というアドバイスをすることも多いのです(そんなアドバイスはしない、という弁護士を私は知らない)。もちろん、弁護士が依頼者の方針を決めるという訳にはいかないもので、最終決定権は依頼者に留保されていますが。(依頼者の金をとるわけですから、弁護士が依頼者の方針を「全て」決めて金を取るのはお手盛)
  結果として、法的な建前からすれば、正しい人間を屈服させることを勧める場合もあるでしょう。勝てるかもしれないけど、仮に取れても少額。これで訴訟起こしてたとえ勝ってもほとんど得にならないですよ?とアドバイスするなんてことは、珍しくもなんともありません。
 こうしたデメリットを説明しないで依頼者に損をさせれば、逆に弁護士が説明不足ということで弁護過誤で賠償請求なり懲戒処分なりということにもなりえるのです。
 
 以前の職務質問で、さっさと解放されるためにはおとなしく質問を受けるのがお勧めと書いたのもそういうことですね。当時私は弁護士ではなかったわけですが、今でも回答に変更はありません。
 「早く帰りたい」という目的を設定した上で、それに従うならば一番いいのは、素直に受けることだ、という訳です。
 どうしても受けたくない、という目的を設定するならば、デメリットは大きいし、そういう信念をお持ちでない限りお勧めできないよ、ということになります。
 職務質問における任意性の建前などは当たり前で、多くの人は更にそれ前提にどうすれば有利になるのかに興味があるのが普通ですから、それなら素直に受けた方がいいですよ、と勧めたわけです。
 



 裁判その他で争う、ということを考えるなら、依頼者サイドはこういう意味でギャンブルとなることを常に踏まえて、更には弁護士に頼まれたら協力する体制を整えなければならない、という訳です。もっといえば、そういうギャンブルをするのがよいか泣き寝入りをするのがよいか、自分で選ばなければならないのです。
 そういう中で、泣き寝入りを選ぶ人は決して少なくありませんし、弁護士サイドからそれを勧めることもあります。
 個人的には、泣き寝入りしろというのは心苦しいですが、だからといって依頼者の尻をひっぱたいて、もっと厳しい思いをしろ、なんていうこともできません。
 その意味で覚悟がきちんとできておらず、あれも嫌、これも嫌という人からの依頼は、受任できないということもあり得ます。
 





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最終更新日  2011年08月10日 18時54分11秒
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