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テーマ:憲法議論(165)
カテゴリ:憲法
わが国では、革命でもなく、また征服でもなく、しかもこの第73条の改正手続によって、天皇の勅語を仰いで帝国憲法が、全面的かつ根原的に改廃されてしまったような外観を呈しているが、この事実は、いったいどう理解すればよいのであろうか。私はこれに対しては、ただ一語「それは占領の仕業であった」と答えたい。そして、いわゆる「日本国憲法」は独立回復後、日本人によって処理されることを期待しているところの「占領軍の落とし子」であると考える(菅原裕『日本国憲法失効論』(国書刊行会)、p. 53) 直接の証拠はないにせよ、総合的に判断すれば、GHQが日本人自ら正規の手続きを踏んで憲法改正を行ったように見せかけるよう工作を行ったということは疑い得ない。 日本占領軍の最も大きな過誤は、一時的占領統治によって、被占領国固有の正統憲法まで、改廃し得るが如く、錯覚して、マッカーサー元帥が「憲法改正を含まない政治的改革は、まじめに考える価値のないものである」といって、盲人蛇に恐れず式の法的無知ぶりを発揮したことであった。(同、pp. 54-55) 自分がやろうとしていることは、国際法違反であることを知らぬがいいことに(知らぬ振りをして)、マッカーサーは、このような傲慢極まりない発言を口にし、実行したのである。 占領軍の使命は、その軍事占領目的を達成するをもって必要かつ十分とするものであって、被占領国の文化や、法律制度を破壊したり、改廃したりし得べきものではない。ポツダム宣言にいっている「民主主義的傾向の復活強化」も、日本政治の運営を、独裁的ではなく、議会制度を中心として、世論公議を尊重するようにした過去の運営方法を復活強化させるという意味にすぎずして、国の根本組織を変革することを意味したものでなかったことは申すまでもない。 これに関する国際法の直接の規定はハーグ陸戦規則であるが、なおその上に大西洋憲章、ポツダム宣言ならびに降伏文書などにも違反しているのである。しかもこのことは、GHQ自体も、「純粋な法律的見地からは現行憲法の枠内には、全面的改正のための機構は存在しなかったし、かつかくのごとき機構をつくることは、ハーグの規約を破る軍事占領者の不適当な干渉だと考えられるおそれがあった」と自認しており、「日本の新憲法」の報告書中にもハッキリと認めているのである。(同、p. 55) 詰まり、GHQは、米製憲法を押し付けることは国際法違反であることは承知していた。だから日本国民が自らの意思で新憲法を制定したように見せる必要があった。が、GHQの占領下において、日本が憲法改正という主権を行使するというのは、論理矛盾と言うしかない。実際、日本側から提示された帝国憲法改正案「松本試案」はマッカーサーに一蹴(いっしゅう)され、GHQが10日足らずで作成した英文の草案が日本語に訳されて日本国憲法案となったのであった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022.07.03 21:00:09
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