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菊田一夫:著『君の名は(第1部) 佐渡の昼顔』河出文庫
菊田一夫:著『君の名は(第2部) 結婚の幸福』河出文庫 菊田一夫:著『君の名は(第3部) 忘却の彼方』河出文庫 菊田一夫:著『君の名は(第4部) 永遠の花嫁』河出文庫 「名探偵・金田一耕助のモデルは菊田一夫で、 横溝正史が『新青年』の編集者時代にエノケンを取材していて、 たった一度だけ劇場で出会った時の強烈な印象が元になっている」 この話を知って、 オレの想像は広がりまくりましたね。 なるほど、横溝編集長のおかげでリニューアルした『新青年』が モダニズムの男性誌なのであれば、 サブカルチャーの芸能記事にも力を入れるだろう。 そりゃ当代一流のコメディアンに密着取材もするだろう。 芸人さん自身は忙しいから、 付いている作家さんに話を訊く、周辺取材のほうが中心になるだろう。 劇場へ行けば、エノケンに会えるより前に、 まず作家を紹介されるだろう。 「はじめまして、博文館の『新青年』という雑誌の、 横溝と申します」 「どうも~。作家やってます菊田です~。」 「今度ウチの雑誌のオピニオン・ワイドで エノケン先生のロングインタビューをお願いしています」 「はぃはぃはぃ。どうでしょうね~。 いまケンちゃん、コレでコレだから。ひとつシクヨロで」 「あの~、菊田さんって、もしかして『君の名は』の?」 「いやいや、そんな仕事もありましたっけねえ」 「あのドラマ、大ヒットじゃないですか。お忙しいんでしょう?」 「何の何の、大したことはないですよ」 「まだ、こちらの劇場のほうでも?」 「まあね、お笑い好きなんでねー。 ケンちゃんとは、いつまでも面白いことやりたいねーとか話してましてね、 いろいろやらせてもらってるんですけどね」 あった、あったよ、こういう会話! …いや、オレの時代には。 人気の芸人にくっついている、バラエティの作家 (でも、いずれマジなドラマで天下を獲ろうと狙っている)と、 たまたまタレント取材で遭遇した雑誌の人間の会話、なんてものは、 いつの時代であっても、大体こんなものだよ! そんな野望の劇作家が若き日の、お笑い仕事の時期なんてものは、 ギラギラしていて、きっとアクだらけだよ! 外から来て出会った相手には、ものすごいインパクトを与えるよ! 「場末のレビュー小屋で作家部屋にゴロゴロしてそうなタイプ」の人間も、 「お台場の局で会議室にゴロゴロしてそうなタイプ」も、 本質は何も変わりゃしない。 金田一耕助のキャラクターを現代に置き換えたら、 放送作家の誰それ、彼コレのようになるのか…と思えば、 かなり横溝正史や菊田一夫が、身近な存在に思えてまいりました。 (菊田一夫が『鐘の鳴る丘』や『君の名は』で 「ラジオドラマの作家のセンセイ」として売れっ子になるのは戦後なので、 その頃には編集者の横溝正史と出会っているはずはないし、 上記のような会話が実際にあったとも考えられないんですけどね。 もし、あったのなら面白い、と思うんですよ。 そういう売れっ子の時代ではなくても、 たぶん菊田一夫が発散していた「ギョーカイ人の匂い」というのは 売れる前でも後でも、大差なかっただろうし。 編集者・横溝正史に強烈な印象を残した人物であろうことは間違いないし。) * モダニズム雑誌の編集長だったのであれば、 当時の横溝正史と出会っていた、いわゆる「ギョーカイ」の人というのは、 ミステリー関係者以外でも、 膨大な人数になると思うんですけどね。 あんまり、そういう面での研究というのは 進められていないんじゃないでしょうかね。 横溝正史の小説がミステリー小説ばかりだったからって、 それに影響を与えているのがミステリー関係者だけとは限りませんよね。 そのへんの面白さを、もう少し追求してみたいなあ。 たとえば、↓ここに安藤鶴夫(みたいな劇評家)が出てきますよね。 横溝正史:著『幽霊座』角川文庫 ↓ここには、徳川夢声そっくりの人物が登場しますよね。 横溝正史:著『びっくり箱殺人事件』角川文庫 そういうのは、明らかに、 モダニズム編集者としての横溝正史の顔の部分ですよね。 そこんところ、ミステリーの世界では、 どういう風に考えられているんだろう。 少なくともオレは、 あれだけ多くの金田一耕助の研究書がある中で、 菊田一夫の人物像や作品との関連について、 そっちの方向へ踏み込んだ考察がされているものは ひとつも知りません。 まだまだ未開の分野なんでしょうかねえ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.12.10 13:29:35
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