その愛は、魔法にも似て 5
「薄桜鬼」の二次小説です。制作会社様とは一切関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。(霧が濃くなって来やがったな・・) 精神病院から脱出した歳三は、自分の逃亡を手助けしてくれた警備員・ウィードの車で一路ロンドンへと向かっていた。 霧が多い山岳地方を歳三が車で走っていると、ますます霧が濃くなってきた。 それと同時に、正体不明の“何か”が自分に迫ってくるような感覚に彼は襲われた。(この感覚、まさか・・) 歳三が前を見て只管ハンドルを握っていると、フロントガラスに黒い布が突然はりついた。 すると、車内の空気が急激に下がり、車の窓ガラスが凍り付き始めた。(こいつは・・吸魂鬼!) 吸魂鬼―その名の如く、人間の魂を喰らう化物。 フードの下から干からびた唇で、吸魂鬼は歳三から“幸福”を奪った。「やめろ・・やめてくれぇ!」 歳三はハンドル操作を誤り、車ごと崖下へと転落した。―あの子、いつも周りからトラブルを起こして・・―この前だって・・―産まれてこなければよかったのに。 脳裏にこだまする、自分への呪詛と怨嗟の声。 呼吸をしようとする度に、歳三は鮮血を吐いた。 肋骨が折れ、肺が傷ついているのだ。 このままだと、あと数分ももたない。 死にたくない。 死にたくない。―やっと、見つけた・・ 何処からか、衣擦れの音がしたかと思うと、ドレスを着た、自分と瓜二つの顔をした女が歳三の顔を覗き込んでいた。―あなたを、こんな所で死なせる訳にはいかせない。女は、そう言うと歳三の唇を塞いだ。すると、歳三の脳裏にある映像が流れて来た。それは、女が赤ん坊を抱いて幸せに笑っている姿だった。―何て可愛いのかしら・・―陛下、そろそろ閣議のお時間です。―えぇ、わかっているわ。 女は、赤ん坊を名残惜しそうに乳母へと渡すと、そのまま子供部屋を後にした。―また会いましょうね、わたしの坊や。 そこで、脳裏に流れていた映像はそこで途切れた。「先生、患者さんの意識が戻りました!」「大丈夫ですか?」「ここは?」「病院ですよ。誰か、ご家族に連絡を・・」「家族は、居ない・・」「そうですか・・」 歳三は、たまたま近くにあったメモ用紙に、勇の連絡先を書いた。「トシ!」「勝っちゃん・・」「いきなり連絡して来たと思ったら、事故に遭ったって聞いて驚いたぞ!」「済まねぇな、勝っちゃん。」 あれ程の大怪我をしたのにも関わらず、歳三は全治一ヶ月で済んだ。「大丈夫か、トシ?」「あぁ、大丈夫だ。勝っちゃん、あいつらはどうしているんだ?」「総司達は何とかやっているよ。それよりも、杖はどうしたんだ?」「・・失くした。」「そうか。退院したら一緒に選びに行こう!」「あぁ、そうだな・・」 歳三はそう言うと、事故の時に見た、あの女の事を想った。 他人の空似とは思えぬほど、自分がまるで鏡に映っているかのような、あの女。「じゃぁ、また来るからな、トシ。」「あぁ。」 勇が病室から出て行った後、歳三はベッドに横になり、目を閉じた。 夢は、見なかった。「なぁ、こんな事したら退学だって!」「へん、そんな事でビビる位なら、スリザリン生が務まるかよ!」「さて・・始めるか。」 人気のない男子トイレで行われようとしているのは、闇の魔術に関する、ある儀式だった。「これでいいか?」「あぁ、完璧だ。あとはこれを・・」「おやおや、君達、真夜中に夜遊びなど、いけませんねぇ。」 彼らの頭上から涼やかでいて、しかし何処か不気味さを漂わせるかのような声が聞こえたかと思うと、紫色の液体で煮え立っていた大鍋が突然消えた。「さ、山南先生!?」「俺達は、あの・・」「スリザリン、一人200点減点です。これ以上わたしを怒らせたくないのなら、さっさとベッドへ戻りなさい。」「は、はい・・」「全く、生徒の夜遊びには困ったものですね。」 山南はそう言って、杖を自分に向かって威嚇しているハムスターへと振った。「助かったよ、山南君!」「大鳥さん、何故彼らの儀式の生贄となったのかはわかりませんが、真夜中の散歩も程々にして下さいね?」「わかったよ。」 魔法薬草学教授・大鳥圭介はそう言うと、シュンとした様子で男子トイレから出て行った。 ホグワーツから少し離れた“禁じられた森”では、数人の女子生徒達が肝試しをしていた。「みんな、どこ~?」 グリフィンドール生の雪村千鶴は、足元をランタンと杖で照らしながら、友人達の姿を探していた。“禁じられた森”は不気味で、今にも何か出て来そうな雰囲気を醸し出していた。(どうしよう、早く戻らないと・) どこからか、狼の遠吠えが聞こえて来た。 広い森の中を千鶴が走っていると、狼の気配が徐々に近づいてきた。「きゃぁっ!」 千鶴が地面の窪みに躓いた時、銀色の月光に狼人間が照らされた。 狼人間は、鋭い牙を光らせながら口元から涎を垂らしていた。「ひぃ・・」 逃げたいのに、まるで金縛りに遭ってしまったかのように千鶴はその場から動けなかった。 狼人間は、荒い息を吐きながら千鶴に飛びかかろうと、その鋭い牙と爪を光らせていた時、さっと黒い影が千鶴の前を横切った。 それは、漆黒の毛を持った、紫眼の黒豹だった。 黒豹は鋭い爪で狼人間の目を潰すと、狼人間は情けない声で鳴くと何処かへ行ってしまった。「あの、助けてくれてありがとうございます。」 千鶴はそう言って黒豹に一礼すると、黒豹はじっと彼女を見つめた後、ホグワーツ城へと向かって歩き出した。「あ、待って!」 慌てて千鶴が黒豹を追い掛けると、徐々にホグワーツ城の灯りが見えてきた。「千鶴~!」「千鶴ちゃん!」 千鶴がホグワーツ城に入ると、彼女の元に友人の鈴鹿千と、彼女の妹で鈴鹿家の幼女である小鈴が駆けて来た。「良かった、無事に戻って来てくれて!」「ほんまやで。中々帰ってけぇへんから、どないしようかと思ったわ。」「二人共、心配かけてごめんね。親切な黒豹さんが・・」「黒豹?」「そんなん、何処にもおらへんで?」「え?」 千鶴が辺りを見渡すと、そこには黒豹の姿は何処にもなかった。(気の所為だったのかな?) そう思いながら、千鶴は友人達と共にグリフィンドール寮へと向かった。「あれ、土方先生は?」「今日は自習です。土方先生は、体調不良で暫く休まれるそうです。」 えぇ~、と、女子生徒達から不満そうな声が聞こえて来た。「ヒルダ様、“準備”が整いました。」「そう・・」「あの方は、まだ・・」「そろそろよ、あの方は復活されるわ。」 闇の魔女・ヒルダは、そう言った後水晶玉の中に映る歳三の姿を見てほくそ笑んだ。にほんブログ村