全て
| 報徳記&二宮翁夜話
| 二宮尊徳先生故地&観音巡礼
| イマジン
| ネイチャー
| マザー・テレサとマハトマ・ガンジーの世界
| 宮澤賢治の世界
| 五日市剛・今野華都子さんの世界
| 和歌・俳句&道歌選
| パワーか、フォースか
| 木谷ポルソッタ倶楽部ほか
| 尊徳先生の世界
| 鈴木藤三郎
| 井口丑二
| クロムウェル カーライル著&天路歴程
| 広井勇&八田與一
| イギリス史、ニューイングランド史
| 遠州の報徳運動
| 日本社会の病巣
| 世界人類に真正の文明の実現せんことを
| 三國隆志先生の世界
| 満州棄民・シベリア抑留
| 技師鳥居信平著述集
| 資料で読む 技師鳥居信平著述集
| 徳島県技師鳥居信平
| ドラッカー
| 結跏趺坐
| 鎌倉殿の13人
| ウクライナ
| 徳川家康
カテゴリ:木谷ポルソッタ倶楽部ほか
――<木谷ポルソッタ倶楽部>――――――――――――――――――――
■「ムルギー」という名のカレー屋さん■ ――――――――――――――――――――――――<2007/1/15>――― 東京で働いていた三年間、私は池波正太郎さんの本を片手によく散策した。 その本の名前は「散歩の時に何か食べたくなって」という。 そしてね、散策している間に、食べたくなって本の中の店によく入った。 そのひとつに「ムルギー」という店がある。 渋谷の道玄坂付近の入り組んだ路地の奥の奥にあるカレーの専門店だ。 レンガでできたやけに古めかしい玄関を思い出す。 中が暗かった。客が多かった。しかし、やけに静かだった。 店員のおばちゃんが履いていた運動靴の白が鮮やかだった。 おばちゃんはテーブルの間を器用に走り回ってカレーを配っていた。 おばちゃんが「ムルギーカレー」を運んできた時には驚いた。 ご飯がとんがっていた。ピラミッドというか小さな島のように盛られていた。 その周囲を島に寄せる海の波のようにカレーがたっぷりとかけられていた。 そして、ゆで卵の輪切りが五、六枚ほどが漂っていた。 「オオーーオッ」 私はそんな悲鳴をあげたはずである。 それから悩んだ。どうスプーンをつければいいのだろうか。 スプーンでカレーをすくって島の端にかけて、そこにゆで卵を置く。 スプーンでガバッとすくって口に運んだ。 エッ、これは何という味なんだろう。豊潤というかとてもゆたかな味なのだ。 どう形容したらいいのだろうか。う~ん、むずかしい。 ただね、ひと口ごとに幸せな気持ちになっていくんだ。 夢中で食べていて気がついたら皿がきれいになっていた。 「皿をねぶりたい」 本気で思った。最後の最後まで味わいたかった。 あれから十年が過ぎた。東京に行っても渋谷に行くことがない。 「ムルギーに行きたい」 そうつぶやいて、どんどん変化している東京を思った。 ムルギーはまだあるのだろうか。 レンガ造りの古めかしい玄関はまだ形をとどめているのだろうか。 運動靴を履いたおばちゃんはいるのだろうか。 食の想い出というものは、食べるものだけではないのだ。 最近、そのことをしみじみと思う。 ―――――――――――――――――――――――― わたしは墓のなかにはいない わたしはいつもわたしの詩集のなかにいる だからわたしに会いたいなら わたしの詩集をひらいておくれ 「坂村真民詩集」より ――――――――――――――――――――――― お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年12月06日 00時04分43秒
[木谷ポルソッタ倶楽部ほか] カテゴリの最新記事
|