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カテゴリ:シナリオ
田んぼのあぜ道を散歩していると、周りに人っ子ひとり居ないのに何やら話し声らしきものが 聞こえてきました。どうやら、黄色い花を咲かせたセイタカアワダチ草が、同じ背丈のネコジ ャラシと一緒に風に揺られている辺りから聞こえてくるようです。興味が湧いた私は、近くへ 寄って静かに耳を傾けました。 ネコ: 周りにいる君の仲間はみんな随分大きくなっているけど、君は僕と同じ背丈だから、話 がしやすいね。ちょっと、聞きたいことがあるんだけど、いいかい? セイ: 僕に聞きたいこと?いいよ、何でも聞いて。 生存場所争いで、いがみ合っている草花同士だと思っていたのに、こんなに仲良く会話している とは驚きです。もうしばらく聞き耳をたてることにしました。 ネコ: 君は花の色が鮮やかでキレイだから、日本へは観賞用として輸入されて来たんだってね。 それなのに、今では嫌われ者になっているそうだけど、どうしてなの?実を言うと、 僕も同じように嫌われ者扱いされていて、憤慨しているんだ。 セイ: キレイだと褒めてくれてありがとう。人間に嫌われるようになった理由は二つあって、 ひとつ目は僕たちの生き方、もうひとつは誤解だね。 ネコ: 生き方と誤解?どういうこと?詳しく教えてくれないかな。 セイ: いいよ。僕はキク科の多年草で故郷は北米だ。君も知っている通り、高さは1m~3mにも なる。最初は生け花などの観賞用として輸入されたけど、国内で栽培されるようになる と、1950年代以降には日本全国で爆発的に繁殖したんだよ。在来植物を駆逐する勢い だったものだから、既存の植物の生活環境に悪影響を与えてしまったんだね。そんな生 き方が嫌われ者になった要因だと思うけど、致命的だったのは花粉症の原因植物だと、 名指しされてしまったことだ。これが大打撃。僕の花粉は重くて、遠くまで飛散しない し、ミツバチなどの昆虫によって媒介されることが分かって、今では花粉症の原因であ ることを否定されたのに、今も人間が僕たちを嫌う思いは根深いんだ。 昔は家の床の間に飾られていたこともあったけど、今では見向きもされないし、見つけ たら駆除せよと通達が出ているところもある。とても悲しいことだよ。僕たちにとって はまさに風評被害だね。名誉を挽回したいけど、一度嫌われちゃうとね~。 ネコ: 人間の観賞用として招かれてきたのに、花粉症の原因植物に間違われて嫌われ者になっ ちゃったとは、気の毒としか言いようがないね。 セイ: ブタクサなんて名前で呼ばれた時期が長かったんだ。本物のブタクサは別にいて、こい つが花粉症を誘発するんだけどね。それが分かるまでに時間がかかったんだよ。言って おくけど、僕の生まれ故郷ではカナダの金色の鞭(Canada goldenrod)と呼ばれ、優 秀な蜜源植物として、又、牧草としても重宝されて、人間たちには大切に扱われている んだ。 ネコ: とんだ濡れ衣で嫌われ者になっちゃったんだね。 セイ: そういえば、君も嫌われ者扱いで憤慨していると言っていたね。君の花は先っちょにあ るモワモワした穂だよね。とてもかわいいと思うよ。やっぱり僕と同じように花か花粉 に原因があるのかい。 ネコ: 僕の場合は花粉症とは違う理由だけど、何故嫌われているのか分からないんだよ。僕は 大昔の人間たちが食べていた粟(あわ)の原種なんだ。その証拠に飢饉の時には僕の種 子を脱穀して食べていたんだぜ。今だって食べられるんだ。だから、大げさに言うと、 僕たちがいなければ今の人間たちの繁栄はなかったかもしれないのに、今じゃ完全に忘 れられている。昔のことを思い出して欲しいものだよ。 もうひとつ、名前のことだけど、君も僕の事をネコジャラシと呼んでいるけど、本当は エノコログサというんだ。漢字では「狗尾草」と書く。ひとつひとつの花がこんもりと まとまった姿がイヌの尻尾に似ているからなんだってさ。それがいつの間にかイヌから ネコに変っちゃった。 セイ: 本来の名前じゃない呼び方をされているのは君も僕も一緒だね。 ネコ: 君と僕との間には生き方に共通点があるようなんだ。そこのところが共に嫌われている 要因になっている可能性があるんじゃないかな。 セイ: それってどういうこと? ネコ: 君も僕も多年生の草で、地下部からアレロパシー物質を分泌して、他の花の種子の発芽 を抑制することで、純群落を形成して繁茂できる。だから空き地や放棄畑などに大群 落を形成できるんだけど、こうした生き方が嫌われているみたいだね。 セイ: 僕らと同じ生き方をする植物は他にもいるんだよ。例えば、君の同属のイネくん、そし てソバくんだ。でも、人間に大切にされているじゃないか。 ネコ: 確かにそうだね。生き方ではなくて、人間の食料としての貢献度の割合で好き、嫌いが 決められているってことか。イネの米もソバの実も人間の主食だものな。 セイ: オオキンケイギクくんも輸入後、しばらくの間はきれいな花だともてはやされて、「オ オキンケイギク祭り」などと河川敷の公園などで大人気だったのに、今じゃ、駆除対 象になっている。彼らも人間の食料にはなれないからね。 ネコ: あ~、イヤダ、イヤダ。あんまり深く考えないことにしようよ。僕たちは僕たちなりに 逞しく生き延びていけばいいんだ!人間たちに振り回される必要なんてないんだから ね。 聴けば聞くほど、人間の私はかなり旗色が悪くなってきました。なんだか、彼らに申し訳ない 気持ちになって、その場を離れることにしました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016.10.24 07:43:24
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