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カテゴリ:lovesick
結局、撮影が延びに延び、家に帰ったのは夜中の2時ごろだった。そっと玄関を開けて家に入ったが、なんのことはなく、まだ居間から明かりが漏れていた。瑞希かな?と、中に入ると、意外にも、母がソファで雑誌を読んでいた。
「あら、お帰り。遅いのね。飲んでたの?それともお仕事?」 「ただいま。今日は仕事」 「いつもこんなに遅いの?」 俺は、母の向かいに腰を下ろし、 「日によるけどね。今日は予定より延びたんだ。それにしても、どうしたの?珍しいね」 「私は今日は早かったのよ。たまには人並みの時間にって、早めに寝ようとしたんだけど、かえって目がさえちゃって。だから、あきらめて、」 母は、ワイングラスを上げて、 「寝酒でもしようかしらってね」 「なるほどね。父さんは?」 俺はそばにある小さなクーラーから、ペリエを出す。 「まだ帰ってるわけないでしょ。ところで、悠斗。あなた、なんだか好きな人ができたらしいわね?」 思わず、瓶を落としそうになる。あの、おしゃべり。 「瑞希だな。ほんとおしゃべりだよ、あいつは」 「あのくらいの女の子はみんなおしゃべりよ。で、どんな人なの?美人?年はいくつ?何してる人?」 「そういうの一応、興味あるんだ、母さんでも」 家庭よりも仕事優先の人だから、言ってみた。 「そりゃあ当然でしょ。あなたね、この間みたいな子、全然だめよ。ほんとに趣味悪いったらないんだから。ちゃんと親に紹介できるような子にしなさいよ。もう20歳も過ぎたんだから」 「ほっといてくれよ。この間って、もう1年半も前の話だろ?」 「そうだったかしら?で、今度の人はどうなの?」 「めちゃめちゃいい子だよ。美人だし、同い年で、陶芸家なんだ。」 一応母の質問に答える。 「陶芸家?いいわね~、気が合いそうだわ。名前は?私も知ってる人かしら。」 そういえば、母は暇があれば陶芸家の個展を回っていた。でも、楓は覆面でやってるって聞いたな。 「知らないと思うよ。」 「そう。あなたと同い年なら、まだまだ若いものね。どんな作品を作るのかしら?興味あるわ~。今度あわせてよ。」 「でも、恋人になれるかどうかは、まだわかんないよ」 「あら、あなた、弱気じゃない。瑞希の話だと、もっと進展した関係なんだと思ってたけど。もっと自信もっていかないと、可能性0になるわよ」 俺はペリエを飲みながら、うなずく。 「ご忠告ありがと。がんばるよ。さて、風呂入って寝るわ。母さんも、ほどほどにね」 「なんだ、つまんない。付き合ってくれないの?」 「遠慮しとくよ。色々、聞かれるの怖いし」 と笑うと、母は、 「ふふ。悠斗はほんと、真面目なんだから。」 「おやすみ」 「おやすみなさい」 部屋に戻ろうとして、瑞希の部屋に電気がついているのに気づいた。ノックする。 「はあい」 眠そうな声。俺はドアを少し開けて、 「おしゃべり」 と言ってやると、 「だって、初デートでお泊りなんて、しゃべりたくなっちゃうじゃん。前途多難とかいってたくせに。スケベ」 「ば~か。夕べは、デートのあと、宗太郎んちに泊まったんだ。考えすぎなんだよ。お前こそスケベだよ、ったく」 「なんだ、そうだったんだ。ごめんね。」 素直に謝られると、それ以上怒れなくなる。 「早く寝ろよ、おやすみ」 「おやすみ。またデートのこと、詳しく聞かせてね」 「ん~、それは内緒」 と、いつものセリフを言うと、 「また~、もう、そればっかり」 俺はふと、瑞希の部屋に張ってあるポスターを見て、 「そういえば、今日、大橋凌くんと一緒だったんだ」 とポスターの彼を指差していってやると、 「え~?サインもらってくれた?」 「まさか」 俺は笑って、 「もう、ケチ!」 という文句を背中にドアを閉めた。 ← 1日1クリックいただけると嬉しいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.01.18 09:50:09
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