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2011.09.02
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僕は久しぶりにのんびりと年末から年始にかけてを過ごした実家を出発し、人通りも少ない暗い通りを、歩いていた。数年ぶりに参加する高校時代の部活の同窓会。会場は、母校の近くの店。レストランと呼ぶには小さく、喫茶店と呼ぶには少し大きめの、僕らのたまり場だった店。寒さに凍えた手をこすり合わせながら近づくと、窓越しにも、もう既に、多くの人間が集まっているのが見える。

・・・さて、カノジョはいるだろうか。

懐かしい仲間たち。だけど僕が本当に会いに来たのは、ただ、1人だけ。ココロをまとめるために、少し足を止め、小さく息をつく。時間にきっちりしていたカノジョ。もしも、来るなら、もう、来ているはずだ。

・・・どうか、来ていますように。

ドアを開けると、黄色い照明が似合う、少しレトロな店内は、昔と何も変わらない。ドアベルの音に、何人かが、振り返る。満面の笑顔に、久しぶりの挨拶や、新年の挨拶にもみくちゃにされながらも、目は必死で、カノジョを探す。だけど。

・・・・いない・・・・?

カノジョの姿を見つけられず、落胆し、差し出されるがままに、グラスを受け取った僕の背後から、声がかかる。

「珍しいですね、お見えになるなんて」

その言葉の内容よりも、その声に、僕は、弾けるように振り返る。目の前には、奇跡のように、カノジョ。離れていた月日を感じさせない、あの日のままのカノジョ。

「・・・久しぶり。」

不意をつかれて、ぽつりと口に出せたのは、たったそれだけ。言いたいことはもっと他のコトなのに、ただ、それだけ、つぶやくように口にするのがやっとなんて、自分で自分が情けない。

うろたえる、僕にかまいもせず、カノジョは、屈託なく笑って、言う。

「本当に、お久しぶりです、先輩」

・・・オヒサシブリデス、センパイ・・・?

僕の思考は一時停止する。

そして、落ち込む。

「・・・って、その呼び方。・・敬語も。。よそよそしすぎるだろ?」

呆然とつぶやく僕に、カノジョは、あの頃と同じようにムジャキに微笑んで、

「そんなことないですよ、先輩。だって、もう、私たち、ただの、先輩と後輩じゃないですか」

呼び方も、敬語も、改めることなく、カノジョはさらりと、「ただの」なんて言葉を伝えてくる。もちろん、会えば、なんとかなる、なんて、100%自信があったわけではないけれど。だけど、こんな、簡単に、木っ端微塵にされちゃうんだもんな。僕の、淡い、ささやかな期待。

きちんと気持ちを伝えきれない、そんなとこだけコドモなままの僕だって、もう、歳だけ見れば28歳。それなりに、社会性は身につけている。だから、しぼんだ期待は隅においておいて、カノジョの希望にそって、ただの先輩な自分を取り戻す。そりゃ少しはぎこちないかもしれないけれど、それでも、なんとか場をつくろうことくらいできる。

「・・・元気だった?」

カノジョにだって同じように流れていたはずの、あれからの月日を、たったそれだけの言葉でたずねるには、ムリがあるけれど、それでも、まず聞きたいのは、そのことだった。最後に見たのが、泣き顔だったから、いつも、カノジョをココロに思うたびに、元気かどうか、それが無性に気になった。

カノジョは、僕をまっすぐに見つめ、小さく微笑んで、答える。

「はい。先輩は?」

僕は正直に答える。

「カラダは元気だったよ」

・・・ココロは、イロイロあったけど。

カノジョは、穏やかに微笑んでうなずいてくれた。

また、ドアベルの音が鳴り、歓声と、人の動きがある。僕らは自然と壁際においやられた。好都合だよ。カノジョを独り占めして、ゆっくり話せるんだから。なんといっても、もしかしたら、最後の機会かも知れないんだし。グラスを持ち上げて、口に運ぶ彼女の手を見て、僕は尋ねる。

「仕事、続けてるんだ?」

核心に触れたくなくて遠まわしにそんなこと、聞く僕のココロに気づいているのか、自分の手にチラリと注がれる僕の視線に、カノジョはイタズラに微笑んで、

「はい。続けてますよ。なんだかんだ言っても、好きだから。」

「・・・そっか」

花が大好きなカノジョ。花屋で働くカノジョ。冬は、手がアカギレて、いつも、つらそうだったから。そして、それは、今も。

「相変わらず、みっともない手でしょ?」

「んなこと、ないよ」

僕が、暖めてあげたいと、思うだけで。でも、そんなこと、まさか口にするわけにはいかない。

「先輩は、今、どうしてるんですか?」

僕はその質問に、ポケットから、名刺を取り出して、カノジョに渡す。彼女の顔が、一瞬ほころびかけて、疑問系に変わる。カノジョが何かたずねる前に、僕は自分から、言う。

「資格を取るのは、ムリだったよ。予定通り、3年であきらめたんだ。今は、そこで助手の仕事をしてる」

「そうなんですね」

カノジョはただ、穏やかにうなずいてくれる。自分のその希望ために、カノジョを随分泣かせたのに、叶えることすらできなかった情けない僕を責めることすらせずに。

「・・・ごめん」

謝らずにはいられない僕に、カノジョは、ほほえんで言う。

「何も謝ってくれなくても。・・・悔いはないんでしょう?」

「試験のこと?」

「ええ」

「ないよ。僕にはムリだった。3年やってみて、それがはっきり分かったから」

・・・悔いはないよ。試験のことは。

「だったら、いいじゃないですか。それに、先輩」

「ん?」

「今すごく充実してそうな顔してますよ。お仕事楽しいんでしょ?前の仕事してた時より、表情が穏やかですよ」

「そうかな」

僕は、ちょっと答えあぐねる。手放しで楽しいか、と聞かれれば、少し首をかしげざるを得ない先生についているから。でも、まあ。

「かもしれないな。前の仕事のときは、それこそ、人間関係や、ノルマに押しつぶされそうだったからな」

「よかったですね」

・・・ほんとにそう思ってる?君を手放してしまった僕の今を。

やがて、他の仲間の騒ぎに巻き込まれ、聞きたくても聞けないことたくさん抱えたまま、僕とカノジョの2人だけの時間は終わる。だけど、誰と話していても、僕の目は何度もカノジョの姿を探してしまっていたんだ。






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最終更新日  2011.09.02 22:38:27
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