【快適空間】 KAIQOOコラム！

こまめな換気で予防

ピカピカの新車に乗ると目がチカチカして気分が悪くなる。こんな経験があったら「シックカー症候群」かもしれない。
新築住宅などで発症するシックハウス症候群の車版で、車内にこもる化学物質で引き起こされる。狭い密室内は濃度も高くなり、化学物質に過敏な人は要注意だ。

大阪府に住む三十代のＡさんは昨年、新車を購入した。
ツンとするにおいは「新車特有のもの」と喜んでいたが、乗り始めて一分もたたないうちに歯茎がしみてきた。そのうちに吐き気がして頭痛も始まった。

においが原因だろうと考え、窓を開け放って換気すると次第に症状は治まった。その後、つとめて自動車の窓を開けるようにしているうちに症状は出なくなったという。

「典型的なシックカー症候群」と、シックハウス問題を調べている環境問題総合研究所の片倉宏理事長は話す。

自動車は内装に接着剤や樹脂を多用しており、ホルムアルデヒドやトルエンなどの化学物質（揮発性有機化合物＝ＶＯＣ）が高い濃度で揮発することが多い。
こうしたＶＯＣを吸い込んで鼻やのどの痛み、めまい、頭痛、吐き気、集中力の低下などの症状が出る。

Ａさんのように換気に気をつけるだけで症状が出なくなることもあるが、めまいや頭痛などの症状が長引くこともある。シックハウス症候群と同様に症状が多彩で決め手となる治療法はまだない。国内には専門医もまだ少ない。

発症するのは新車がほとんど。
特に夏の間、閉め切った車に乗った直後にひどくなるケースが多い。
高温で車内の樹脂からＶＯＣが揮発しやすくなっているからだ。
新しいバスや電車でシックカー症候群になる人もいるという。海外から輸入されたばかりの外車も、車内は長期間閉め切られているため注意がいる。

大阪府立公衆衛生研究所の調査では、ある国産の新車から、厚生労働省がシックハウス症候群対策として定めたＶＯＣの値（一立方メートル当たり四百マイクログラム）を約三十倍上回る濃度のＶＯＣが検出された。

厚労省の指針値は、家などを前提に設定したものだが「（自動車などにも）幅広く適用してほしい」（同省化学物質安全対策室）との立場だ。

自動車業界も対策に乗り出した。日本自動車工業会は二〇〇五年二月、厚労省の指針を自動車の車室内にも適用することを決めた。〇七年度以降に発売する新型車からは、車内のＶＯＣを住宅並みに引き下げることが求められる。

これに先だって各社はシートや接着剤にＶＯＣの発生しにくい素材を使ったり、ＶＯＣを除去するエアコンや空気清浄機を搭載するなどの取り組みを進めている。ただ対象は高級車が多く、すべての自動車で対策が進んでいるわけではない。新車を乗り始めたころはできる限り換気をすることが予防策だ。

自動車に使用される化学物質では、「有機リン化合物の方がＶＯＣよりも健康被害が深刻」（農薬による健康被害に詳しい青山内科小児科の青山美子院長）との指摘もある。

有機リン化合物は有機リン農薬の散布などが原因で吸い込むことが多いが、自動車の内装材からも発生する。
樹脂に可塑剤や難燃剤が含まれているからだ。
有機リン化合物は精神・神経障害を引き起こすことが知られており、わずかな量でも長期間吸い続けると慢性有機リン中毒になる。

症状は倦怠（けんたい）感、頭痛、肩こりのほかめまい、イライラ、落ち込むなどの不定愁訴。更年期障害や神経症、うつ病の症状と似ているためなかなか分からない。有機リン化合物はＶＯＣのようににおいが無いので気づかないうちに症状が悪化するケースも多いという。

【表】シックカー症候群の典型的な初期症状
　　
○　　目がチカチカする
○　　車に酔いやすくなる
○　　吐き気や頭痛がする
○　　歯茎がしみる感じがする
○　　鼻水や鼻づまりになる
○　　肩がこり、疲れやすい
○　　よだれが出たり、口が渇く
○　　動悸（どうき）やイライラがある

【表】厚労省によるシックハウス指針

対象物質　　室内濃度指針値

アセトアルデヒド　　０．０３ｐｐｍ
フェノブカルブ　　３．８ｐｐｂ
ホルムアルデヒド　　０．０８ｐｐｍ
トルエン　　０．０７ｐｐｍ
キシレン　　０．２ｐｐｍ
パラジクロロベンゼン　　０．０４ｐｐｍ
エチルベンゼン　　０．８８ｐｐｍ
スチレン　　０．０５ｐｐｍ
クロルピリホス　　０．０７ｐｐｂ（成人）
フタル酸ジｎブチル　　０．０２ｐｐｍ
テトラデカン　　０．０４ｐｐｍ
フタル酸ジ２エチルヘキシル　　７．６ｐｐｂ
ダイアノジン　　０．０２ｐｐｂ


2006/05/09, 日本経済新聞　夕刊, 13ページ

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