出来事
おおよそ接点の無かったおまえとサシで飲み終わった後おまえは気を使おうとして帰りのタクシーを探してくれた人気(ひとけ)の無い裏通りだったしばらくするとフラフラしながら俺を手招きして「こっちです」もう飲む事もないだろう感謝と記念の意を込めて手を差し出した握手するとおまえの手は何故か冷たく濡れていたサヨナラと軽く手を振ったドライバーは当たり障りのない世間話をした後でおまえの話をしてくれたタクシーを止める為に走って雪で足を滑らせた事を転んでもなお俺の為にタクシーを追いかけたことをおまえもまた不器用な奴だそんな事は微塵も感じさせなかったただ濡れた手の感触だけがそれを伝えていた流してはいけない出来事だせめて此処に留めて置こう