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カテゴリ:小説
「第二ボタンの最初の物語を踏まえてさ、
人間は儚いね。故郷では人を愛する人ができる。 戦地では、何のためらいもなく人を殺すんだ。 人間は不思議だね。だからこそ、歴代の哲学者が考え、 作家が自分の作品を世に出したのかもしれない。」 そう話すと、外の夜景を見つめながら、彼は続けて話した。 「この場所もさ、六十年前は空襲で焼け野原になったんだよ。 今では、そんなこと全く分からないね」 羽鳥君は切なそうだった。 私も、胸が痛かった。私も、一緒に考えたい。そう、思った。 日本人として、人間として、これからの社会を支えていく者として、 解決すべき問題だから。 私だって、どうすれば良いかなんて分からない。 ただ、一つ分かるのは難しい問題ということだけだ。 私の決意を知ってか知らずか、羽鳥君は私の反応をうかがっていた。 今度は、私が答える番のようである。 「私ね、今の話にショックだった。でもね、どこか客観的 というかバーチャルに見ていた部分があるのね。 実際、教科書問題のデモや中国の半日運動は テレビのニュースや新聞で見ただけだから。 今の話を聞いてさ、何かリアルというか 上手く説明できないのだけど、目の前で起きている ことなんだな、ということが分かったよ。」 自分でも、自分でも何を言っているのか分からなかった。 だから、「ごめん。バカなこと言ったね。もっと、勉強してくるよ」 と謝ってしまった。すると、羽鳥君はやさしくなだめてくれた。 「オレの言いたいことが伝わったみたいで、良かった。 オレ、じいちゃんの話を聞いた当初は、自分の血を忌み嫌ったさ。 でも、じいちゃんが生きて帰ってこなければ、 オレは生まれてこなかった。それに、じいちゃんだって、 罪を犯したのは事実だけど、好きで戦争に行ったわけじゃない。 それに、じいちゃんカッコいいんだ。 『自分は戦争中、南方で罪を犯してきた。 だから、これからの人生、苦しみや痛みがあっても、 素直に受け入れる』と言ったんだ。 オレ、こんなじいちゃんを誇りに思う。 だから、今の授業もそうだけど、卒論も日本と アジアにおける歴史問題について書くよ」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005年12月25日 17時40分18秒
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