1951 アメリカ 　監督：ジョン・ヒューストン
出演者：オーディ・マーフィー、ビル・モールディン、ジョン・ディークスほか
６９分　モノクロ　

　南北戦争の若い北軍兵士を題材にした1894年のスティーブン・クレイン著「赤い武功章」の映画化である。初めての実戦に恐れをなして逃亡する新兵が過ちを思い直して勇敢に戦って武勲をあげる様を描いたもので、戦闘に恐れをなすもの、無知から来る勇敢さが脆くも崩れるもの、実戦豊かなベテラン兵まで多彩な登場人物がストーリーに彩りを添える。主演のオーディ・マーフィーは、実際に第二次世界大戦のヨーロッパ戦線で兵卒から少尉にまで任官し、３３の勲章を得た本物の英雄でもある。童顔からは想像の付かない勇敢で勇ましいオーディー・マーフィーが、本作で戦争に恐れをなして敵前逃亡する役をやるとはなかなか洒落た配役である。
　話自体は極めて単純明快なものであり、特段特記するような斬新さはない。しかし、当時にしてはスケール感のある映像と視聴者を引き込むようなアップシーンで映画に強弱を付けている。本作の主題にある勇者の赤いバッジとは名誉の負傷章であり、それを得る事の勇気と称賛がメインテーマである。幾多の戦争を経験し、世界の警察を自認するアメリカならではの、勇気の価値観なのである。従って、我々戦後日本人から見ると、いささか鼻につく英雄美化もあるし、死に対する克服過程はやや理解しづらい側面はある。
　臆病か勇敢かという二元論のもと、結果は無傷、負傷、死という選択肢がある。決して臆病者にはならないというアメリカ的な英雄観もそこにはあり、合理主義といわれるアメリカ社会に於いて、明らかに非合理的な考え方が一方で貫かれる。しかし、もう一方で本作には死んでしまったら元も子もないという無常観もまたあって、めまぐるしく変わる価値観の変化と心情の変化が表現されている。

　戦闘シーンは南北戦争の典型的なものであり、防御時には遮蔽物に隠れたり腹這いになって射撃するが、攻撃時には堂々と横隊で行進し敵の照準射撃で一斉に倒れる、という恐ろしいシーンが繰り広げられる。何度見ても恐ろしいのだが、途中で「俺は寝転がって射撃はしない。卑怯だからな。」という会話があるとおり、敵の的になるのがわかっていながら行進していくこの戦法は、先の卑怯者か勇者かという価値判断に基づくものなのだろうか。先頭を走って敵陣に乗り込む主人公らは勇敢と言うより、弾に当たらないラッキー者なだけというような気もするのだが。近代戦を見慣れた者にとっては、本当に末恐ろしい戦いなのであった。

　本作はコンパクトにまとまった良作であり、臆病者と勇者とは何かをじっくりと考えさせてくれる。アメリカ人と日本人ではその価値観も異なるだろうし、時代によっても異なるだろう。そう言う意味では、映画としてはハッピーエンド的でありながら、どっしりと重たいものを残す後味の悪い作品だとも言える。

興奮度★★★★
沈痛度★★★★
爽快度★★★
感涙度★


（以下　あらすじ　ネタバレ注意　反転でご覧下さい）
　1862年春。北軍の第304連隊の新兵ヘンリーは繰り返される訓練の日々に嫌気がさしていた。しかし、いざ実戦が近いとなると怖くなってくるのだった。ベテラン兵のジム・コンクリンに尋ねると「皆が逃げるなら逃げる、皆が戦うなら戦う」と答えるし、親友のウイルソンもまた「逃げない。義務は果たす。」と言い切る。
　いよいよ、南軍との前線に近づき、倒れる死体を目の当たりにするにつれて、ヘンリーは恐怖に震え、それまで自信満々だった兵士もまた無口になってくる。初めての実戦に、皆ベテラン兵の挙動を真似する始末。
　最前線に配置され、ヘンリーらは迫り来る南軍を迎え撃つ。最初の攻撃はなんとか撃退するものの、二度目の攻撃で自陣地に南軍兵士が入ってくる。ヘンリーは恐怖の余り逃亡する。途中で大尉に止められるこものの、それを振り切り森の中へ。ヘンリーは森の中で北軍将軍の会話を聞く。どうやら北軍が陣地を守りきったようだ。「愚直な戦友は踏みとどまり、無知ゆえに勝利を得た」のだ。ヘンリーはそれを聞いて恥ずかしくなってくる。
　しかし、今更部隊に戻る事も出来ず、後方をさまよい歩く。負傷して後送される一群の中にジム・コンクリンの姿を見つけて肩を貸すが、ジムはそれをふりほどいて走っていき絶命する。まさにすごい気力の持ち主で彼こそが勇者だった。それを見てヘンリーはさらに心乱れる。そこに北軍兵の退却兵がやってくる。それを制止するヘンリーだったが、逆に銃で殴られて気絶する。ヘンリーは軍曹に助けられ部隊のもとに戻る。
　部隊では行方不明とされており、逃亡の罪を問われる事はなかった。ヘンリーは過ちを思い返しのだった。ヘンリーは今度こそ逃げ出す事ななく、南軍の攻撃に対して勇敢に立ち向かっていく。そして、いよいよ第３０４連隊が南軍に攻撃することが決定される。今度は隠れることなく敵に向かっていかなければならない。ヘンリーは堂々と先陣を切り、倒れた旗手から北軍旗を取ると先頭を歩いていく。次々倒れていく戦友だったが、ついにヘンリーは南軍の陣地に突入し南軍旗を手にする。
　北軍の大佐と大尉はヘンリーとウイルソンの勇気を称えるが、ヘンリーはウイルソンに最初の戦闘で逃亡した事を告白する。しかし、ウイルソンもまた逃亡したのだと言う。
　ヘンリーの魂は変わっていた。死は死でしかないのだ。

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