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March 12, 2024
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カテゴリ:書評

正しい核戦略とは何か

ブラッド・ロバーツ著 村野 将 監修・解説

 

現実を理想の方向に動かすために

長崎大学教授  西田 充 評

 

本書は、米ソ二大核超大国が対峙した冷戦期の核戦略から、地域の核保有国との関係を中心とする21世紀の世界に適応した核戦略の視点も交えながら議論を展開している稀有な文献である。

核兵器は人類を滅亡の淵に追いやることのできる唯一の兵器である。したがって、人類の生存のために核兵器は廃絶すべきというのはいたってシンプルな結論である。特に唯一の被爆国である日本人にとっては。だからこそ、時には日本が震源地となって世界中で反核運動が巻き起こり、核抑止論は核廃絶の障壁として批判の対象になってきた。本書は、核抑止論について、核兵器の使用がもたらす悲惨な終末を認識しているからこそ、核兵器が存在する限りにおいては、核兵器の使用や全面核戦争を防ぐために人知を尽くして編み出された理論の結果であるといえる。

とは言え、核抑止論は、核廃絶が実現するまでの暫定的措置であるべきで、少数国による核保有を正当化・固定化するための理論であってはならない。そのために核廃絶・核軍縮の運動を続けることは必要なことであり、また、非常に尊いことである。他方で、そうした運動が、核抑止論をたんなる核兵器保持のための正当化理論であると批判の対象にする限りにおいて、そこで意味のある対話を生み出すことは難しい。むしろ反発を招き、ますますそれぞれの貝の中に閉じこもってしまうだけのことになる。現実の脅威や核抑止論を正確に理解した上で、現実を理想の方向に少しでも動かすためにはどうすればいいのかを議論することで、意味のある対話が生まれるのではないだろうか。ある脅威に対処するための核抑止を含む核戦略において過剰な部分や非論理的な部分があればそれを指摘する。あるいは、脅威そのものを変化させるための具体的な方策を議論し、それが実現した段階で、核戦略を新たな現実に適応させるよう議論を進める。こうした対話を通じて核抑止論が、核兵器を「正当化」「固定化」するための理論になり下がらないことを担保することができる。また、環境が整った暁には取りうる各軍略措置や、必要な措置(例えば、新たな核軍縮検証技術の開発)を今のうちから検討する。こうした地道な対話や取り組みは、観念的な軍縮論にくらべるとそれほど見栄えせず、アピーリングでもない。しかし、核廃絶を達成するためには、世の中の価値観を根本から変えるような反核運動のみならず、こうした地味な作業も必要なのである。

本書の核軍縮に関する結論は、今は大幅に核軍縮を進めることは難しいというものであるが、同時に未来永劫可能ではなく、その目標は決して捨てるべきでないとも力説している。核抑止論者でありながら核軍縮論者でもある。ロシアによる核の恫喝もあって、世の中はどちらかの立場にますます分裂するばかりの中、本書が提唱する抑止と軍縮に対する「バランスのとれたアプローチ」がこれからの世界においてますます重要となろう。核軍縮を進めたい人々にこそ是非一読をお勧めする。

ブラッド・ロバーツ スタンフォード大学教授などを歴任。オバマ政権下で国防次官補代理として「核体制見直し」等の策定を主導。

 

 

【読書】公明新聞2022.11.21






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Last updated  March 12, 2024 06:44:11 AM
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