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片桐早希です。訪問ありがとうございます。 小説をブログで書いています。 八月一日から「夏野」を書き始めました。お時間があったら読んでくださいね。 楽しんでもらえるようがんばります。 ↓過去の作品等↓
*このサイトにおける作品に関しましては、無断掲載・二次配布はご遠慮ください。 片桐早希の日記 [全731件]
紀子は小中高生の学習教材の販売や学習塾を開いている会社に、長い間勤務している。 小学生のための学習塾の講師の仕事が主で、子どもたちに勉強を教える楽しさを江利に よく話した。そういう時の紀子は生き生きとして、聞いている江利まで明るい気持ちになった ものだ。 その紀子が、仕事の話になったとたん意気消沈しているように見える。 江利は言葉を失い、そのまま黙って座っていた。 紀子はしばらくして、大きなため息を一つつくと、言葉を選びながら最近のことを話し始め た。 「長い間一緒に働いていた人が、仕事を辞めたの。二人同時にね・・・・。一人はだんなさん が実家を継ぐために引っ越さなくてはならなくなったため。もう一人は親の介護のため。しょ うがないよね、私たちはそういう年になってしまったんだから。」 紀子はそこまで言うと、立ち上がり紅茶を煎れ、空色のカップを江利の前に置いた。 「淋しい気持ちはあったけれど、それはそれで避けられないことなんだから、それぞれの道で がんばろうって言い合ったんだけれど・・・・・、彼女たちがいない職場は何だか調子が違う のよね。今までなら、スムーズにできていたことができなかったり、話がこんがらがった り・・・・、会話がかみ合わなかったり、常識を疑いたくなる行動がやけに目についた り・・・・。何だかそんなことばっかり続いて、急に仕事の意欲がなくなっちゃたのよね。」 肩を落としてぼそぼそ話す紀子に、江利は驚く。 「こんなこと考えるなんてね・・・・・・。」
「紀子さん、何かあったんですか?」 江利は紀子の家では、いつも台所で話す。 この日もいつもの椅子に座って、紀子が出してくれたお茶を飲みながら聞いた。 紀子はきょとんとした顔をし、 「何が?」 と言った。 「あ、いえ・・・・、ちょっと紀子さんの服装がいつもと違うので・・・・・。」 「ああ、このエプロン姿のこと? 失礼しちゃうわね、私だってエプロンして台所の掃除くら いするわよ。」 紀子は笑顔になり、 「でも、台所ってなかなかきれいにならないね・・・。まあ、普段さぼっているから、当たり 前なんだけれどね。家事優等生の江利さんには考えられないことだね。」 と言った。 「そんなことはないです。私の家は物がないので、散らかりようがないんです。」 「まあ、家事も才能だからね・・・・。私はダメだわ~~。」 「紀子さんは家事より自分の仕事をバリバリする人だと思っているので、今日のエプロン姿が 意外でした。失礼しました。」 江利はいつものように、自分が思ったことをそのまま言ったのだ。しかし、江利のその言葉 を聞いたとたん、紀子の様子が変わった。体の力が一気に抜けてしまったように、江利には 思えた。 紀子はしばらく黙っていたが、お茶を一口飲むと、 「そうなのよね・・・・。そうだったんだけれどね~~~。」 紀子はそう言うと、また黙った。 江利はその様子に戸惑い、黙ったまま紀子を見る。
紀子の家の勝手口は、開けっ放しになっていた。 良の伝言を紀子に電話で伝えることもできたのだが、江利は久しぶりに紀子に会いたくなり やってきたのだった。紀子は平日は仕事をしているので、土曜日を選んだ。 江利は家の中をそっとのぞき、こんにちは、と声をかけた。すると、台所の奥でうずくまっ ている人影がゆっくり立ち上がった。 「まあ、江利さんじゃない・・・・。いらっしゃい。」 江利に向けられた笑顔はいつもの紀子だが、服装が違う。エプロン姿の紀子を、江利は初め て見た。それにどうやら紀子は台所の掃除をしていたようだ。掃除をしている紀子を見るのも 初めてのことだった。紀子は自他共に認める家事嫌いなのだ。 三年前の六月、江利は良と一緒にこの高階家に仕事にやってきた。 最初、江利は紀子のことをとっつきにくい人かな、と思ったのだが、すぐにそうではない と思い、親しく話すようになった。 紀子は仕事をしている良を見て、凛々しい姿だねえ・・・・、としみじみとつぶやいた。 その言葉は江利の心の一番奥にそっと入り、それからずっと大切にしまわれているのだっ た。
江利より三才年上の良も早起きだ。毎日五時半には起きる。 結婚してから今日まで、江利は一度も良を起こしたことがない。良は目覚まし時計なしで、 自分で決めた時間に起きることができる特技がある。 江利は感心し、何故そんなことができるのかと聞くと、良はへへへ、と照れ笑いをし、 まあ、誰にも一つはとりえがあるさ、と言った。その時の良の笑顔を、江利はとても可愛らし く思い、何度でも見たいと思ったのだった。 良は笑顔は可愛いが、普段は口数が少なく、おはようとかただいまとかの挨拶以外は ほとんど、おお、という返事だけですます。見かけが一昔前のお侍のような風貌なので、初対 面の人には怖がられることが多い。 良は朝ごはんをしっかり食べると、行ってきます、と言い玄関にむかった。そして、靴を はきながら、 「紀子さんに、近いうちに伺いたいと電話をしておいて。」 と言った。 江利は、うん、分かった、と答え、久しぶりにまた紀子に会えることを嬉しく思った。 紀子の家に行くときは、またお弁当を持って行こう。 良に庭の剪定を三年前から定期的に頼んでいる紀子は、江利の手作り弁当を大喜びして食べ る江利の年の離れた友人でもあった。 さあ、今日もがんばるぞ、と江利が思ったとたん、奥の部屋から大きな声がした。 「おかあさ~ん、良平がおねしょしているよ~。早く来て。」 長男の良太の声だった。江利が急いで子どもたちのところへ行くと、まもなく二才になる次 男の良平が、にこにこ笑っていた。
江利はいつも午前五時には目覚める。 夢もみず熟睡するので、目覚めの気分はとても良い。子どもの頃からずっとそうだ。高校生 の時、級友に一度も夢をみたことがないと言ったら、驚かれてしまったことがある。 庭師をしている平中良と結婚して、良の横で眠るようになってから、ますます眠りが深く なったような気がする、と江利は思う。 起きたらすぐに朝食の用意にかかる。そして、同時に今日一日の食事の献立を考え、できる 下ごしらえを手早くする。 毎朝のこの時間が、江利にとって幸せなひと時の一つだ。 近所からもらったもぎたてのトマト、茄子、かぼちゃなどがある。江利の頭の中に、様々な 献立が浮かぶ。 江利は子どもの頃から、料理が得意だった。 幼くして両親を亡くした江利は、叔父夫婦に育てられた。叔父夫婦は自営業だったので毎日 忙しくしていた。江利はそんな叔父夫婦のために家事をがんばり、そのことで叔父夫婦に喜ば れることが何よりも嬉しかった。 テレビなどで料理研究家という人たちを見ると、その仕事に憧れた。 高校を卒業して食品関係の会社に就職したが、良と結婚して良の仕事を手伝うために、退職 した。 江利はそのことを良に告げた時のことをよく思い出す。 良は江利をまっすぐ見つめ、自分の夢を諦めることはない、江利が料理の勉強を本格的に したかったら、したらよい。お金は俺が何とかする、と言った。 あの頃、二人とも本当に貧しかった。良は庭師として働き始めた時だった。 江利はその時思ったのだ。自分が料理の勉強をしたいと言えば、良はどんなことをしてでも 応援してくれるだろうと。 あの日からもう十年たったのだ。 よくがんばったよね、と江利は自分を誉め、そして一人でくすくすと笑う。 その時、おはよう、と声がして、良が起きてくる。 五時半だ、と江利は思う。 良は毎日五時半に目覚めるのだった。
少し厚めのその紙の隅をそっとめくり、切り目にそってはがしていく。 カレンダーをめくる朝がきた。 江利はこの時間が、とても好きだった。 紙を破らないように注意するのにはわけがある。小学校三年生になる長男の良太が、この カレンダーをとても気に入っているのだった。表に描かれている白くまやアシカのイラストも 可愛いが、裏には切り取ると封筒になるように工夫もされている。 ゆっくりはがしていくと、新しい月が現れた。 八月の始まり。 江利は八月のカレンダーをじっと見る。 ライオンの親子やフラミンゴが笑っている。良太がまた喜びそうだと思い、嬉しくなる。 八月の最初の日の空は、青く澄み渡っていた。
こんばんは。 蒸し暑い夕暮れです。 久しぶりにPCに向かい、ちょっと緊張しています。 しばらく休んでいましたが、その間訪問してくださった方々、コメントをくださった方々、本当にありがとうございます。 また書き始めようと思います。 今回は二十回くらいにしたいと思っています。 お時間があったらまた読んでください。 八月一日からスタートします。 それでは、また。 |一覧| |
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