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ken tsurezure

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trainspotting freak

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2009.08.25
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テーマ:小説日記(233)
カテゴリ:創作
 次に気がついたとき僕は病院のベッドで寝ていた。医師は僕に両親の連絡先を聞いた。そして所持品の検査は警察が済ましたと言った。
 それからしばらくして両親の顔を久しぶりに見た。
 僕は医師に、仕事へすぐに復帰できるかどうかを尋ねた。医師は絶対安静を僕に命じた。そして診断書が書かれ、それを会社に届けて休職するように勧められた。
 僕は新しい現場の副主任として任命されたばかりだ。副主任の休職など許されるはずもない。仕方がなく、僕は会社を辞めることにした。
 震える手で退職願を書き、診断書を添えて、看護婦と両親の付き添いの元、点滴を打ちながら本社へ出向いた。
 部長はその僕の姿を見て、仕事は不可能だと判断したようだ。僕の辞表はあっさりと受理され、それと同時に僕の正社員の期間は終わった。

 入院期間中、彼女は来なかった。でもメールだけは付き合ってくれた。今まで目一杯働いたのだから、しばらく休めという神様からの命令だよ。ゆっくり休みなさい。
 入院が終って自宅療養の期間になっても彼女とは会えなかった。
 また元通りになったら会おうよ。そのときを待っているからね。
 僕はそのメールを励みにして希望をつないでいた。

 僕に仕事復帰の許可が出たのは半年後だった。その後も経過観察として病院に通院する必要があったけれど、ようやく僕は元通りになれたのだ。そう思った。
 仕事はあっさり見つかった。非正規社員としてだけれど、僕はある会社に同じ仕事で雇われることになった。

 そしてそれと同時に彼女との連絡が途絶えた。

 メアドも携帯の電話番号も変わったみたいだ。

 僕はタクシーに乗ったときに苗場ではなく、彼女の部屋に直行すべきだったのだ。僕が死ぬべき場所は苗場でも樹海でもなく、彼女の部屋だったのだ。そして彼女の腕の中で死ぬべきだった。もしあの時少しでも判断力があれば。
 だけど僕はそうしなかった。そのときにもう既に運命は決まっていたのだ。
 回復するまでのメールのやり取りは彼女が見せてくれた最後の優しさだった。そして僕らの関係は終った。僕と彼女の人生はもう二度とクロスすることはないだろう。彼女とはもう会えない。
 僕と彼女が始めてであったとき、僕は35歳で彼女は32歳だった。そして今、僕は37歳になっていた。
 多分。それは僕の最後のチャンスだったのだ。僕は手放してはいけない人の手を振りほどいてしまったのだ。

 そして僕はまた孤独に戻った。僕はあのことがあってから会社を信じられなくなってしまった。そんなこんなで復帰後の最初の会社は正社員の誘いがあったにもかかわらず3ヶ月で辞めた。
 その後しばらくして夜勤の仕事を見つけた。非正規社員という立場だったけど、そこそこの給料はもらえた。そのまま僕はそこで働くことにした。仕事が終った後の早朝に出勤するサラリーマンを横目で見ながら日本酒を飲むことを毎日の目標にして。

 顔には出さないけれど、僕の心は荒んでいた。
 僕の脳裏から離れない実存的なイメージがずっと居座り続けていた。それは僕が死ぬときの光景だ。
 僕は多分65歳から70歳の間に死を迎える。僕はその年齢になっても働いている。なぜなら生活ができないからだ。その日も出勤の朝だ。目覚まし時計が僕を起こす。僕はいつもどおり目覚ましを止めて起き上がろうとする。もう外は冬で寒い。そのとき。僕の胸に激痛が走る。僕は苦しみながら胸を押さえ携帯電話に手を伸ばそうとする。その小さな部屋は公営住宅で僕はもちろん一人で暮らしている。家族はもちろん子供もいない。だから携帯電話を掴んでもどこにもかける場所などありはしない。
 でも苦しみながら僕は携帯電話を探し続ける。そのうち僕はだんだん気が遠くなり、数分間の激痛の中で息絶える。
 僕が通っている会社は無断欠勤を理由に翌日僕を解雇処分する。2日後にその解雇通知書が僕の公営住宅の部屋のポストに投函される。
 僕が関係している人間は誰もいなくなる。僕の遺体が発見されるのは一ヵ月後だ。僕は既に白骨化している。家賃が引き落とせないので連絡に来た公営住宅の管理人が僕の白骨化した遺体を見つける。
 部屋を荒らされた形跡もない。警察は病死と判断し、僕の遺体は引き取り手もないまま集団墓地の無縁仏の下で収容される。

 それが僕が望むことができる最も幸福な死に方だ。それよりも不幸な死に方はいくつもありすぎてきりがない。ホームレスになってサラリーマンにリンチされて死ぬ。あるいは仕事帰りの山手線にて心臓発作で死ぬ。

 金を媒介にした愛のない****はだいたいいくらくらいの値段でできるか。チラシをみればすぐわかる。それを十数倍する。そうするとその金額が今後の将来所得の何分の一なのかを計算できる。それがこれから僕のできる****の回数だ。多分10回もできればラッキーだ。そして僕はそれだけを楽しみにして、それだけが生きている充実だと勘違いして、このあとの死ぬまでの数十年を生きるのだ。
 
 **がたまったらネットの***画像で処理する。その画像を見ながら分泌物を出すたびに僕の心がボロボロに荒んでいくのがわかった。
 僕は毒を身体から排泄しているのだと思った。僕のその部分から毒が出ているのだと思った。その汚い体液の匂いは腐りかけた豚肉を連想させた。
 絶望した心は夢さえも見ない。その言葉のように、僕は自分が荒んでいることに気がつかなかった。僕には不幸が当然のことなのだと思っていた。僕は自分が腐っていることに全く気がつかなかった。
 愛の言葉なんて忘れてしまった。愛し方すら忘れてしまった。人を好きになる方法すら忘れてしまった。
 僕の頭の中にあったのは公営住宅の床で胸の激痛で顔をゆがませながら独りぼっちで死んでいく自分の姿。そんな幸福にみちた最期の姿だった。

 You can stay under my umbrella
 そんなロマンチックな歌詞がとっても好きなんだ。Rihannaのumbrellaという曲がはやっているとき、僕は彼女にそんなことを話した。そう言ったら彼女は僕にこう聞き返した。ねぇ。もしあなたが私の恋人になってくれたならあなたは何をしてくれる?
 僕にできることなんてあまり思いつかないけれど。君の味方になることだけはできる。それだけは約束できる。僕はそう答えた。
 だけど。僕にはそれができなかった。君に何一つしてあげることも、約束を果たすこともできなかった。ゴメンよ。ジュン。約束を守ることができなくて。僕が本当に悪かった。僕は本当にダメな男だった。


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Last updated  2009.08.25 12:45:08
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これは@ Re:世界の終わりはそこで待っている(06/19) 世界が終わるといってる女の子を、「狂っ…
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trainspotting freak@ コメントありがとうございます aiueoさん コメントありがとうございます…

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