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ken tsurezure

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trainspotting freak

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2021.11.21
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カテゴリ:見た映画
僕にとっての90年代って何だったんだろう。
90年代は僕にとってほぼ20歳代にあたる期間だ。多くの人々と同様に僕の90年代は1995年に反転した。そしてそれ以降の時代の心象風景。それが僕にとっての90年代。そんな印象が強い。
これはあくまで個人史に過ぎないけど、1995年に僕は鬱症を患い今に至る。特に95年から98年の3年間は非常にヘビーで、何をやってもうまく回らず、悪い方へ悪い方向へ進んでしまう。そんな感じで、まるで流砂のプールの中でもがいているようでだった。それはあえて名付ければ「空白」。巨大な空っぽだった。
だから30代はそれを埋め合わせるため自分なりに走った。歩いていくということを知らないまま。だから90年代を振り返って感傷的になることなどなかった。またその暇もなかった。
そんな僕も年を取った。成長したのでもなく成熟したのでもなく、ただ年を取り老いてしまった。その結果、自分が90年代に若かった。それだけでその時代を懐かしく感じるようになった。どんな惨めな思い出も巨大な空っぽも、20数年も経てば「よい思い出」に変わってしまう。その頃に思っていた内面や内実を忘れてしまうから。
体力も時代に対する皮膚感覚も消耗してしまった現在からすると、90年代は自分が若かっただけで今よりも自分が尖っていたような錯覚に陥ってしまう。そうすると「90年代ノスタルジー」が始まってしまう。
どちらかといえば灰色でくすんでいた90年代の心象風景が美しいセピア色に変化する。そして「あの頃はよかった」などという90年代に僕が一番嫌だった言葉を吐き出している自分に気付く。
90年代の僕はそんな年老いた自分を見てどう思うだろうか。軽蔑?吐き気?怒り?いや。意外と何も感じないかもしれない。あのときは自分が生き延びること、ただそれだけで精一杯だったから。他人をどうこう言う余裕はなかったかもしれない。

「そしてボクたちはみんな大人になれなかった」という映画の舞台は90年代だという。主人公がある事件(というより事象)をきっかけに昔を思い出し、回顧する。そのようなストーリーだ。そんな前情報を聞いてこの映画を見た。
多分「90年代はよかった」というそんな90年代ノスタルジーの映画なのだろう。そう思ってその映画を見に行った。
だけど逆だった。そこにあったのは主人公の砂をかむような思い。それはこの小説の原作者の燃え殻氏のものか。あるいは監督の思いか。それはよくわからないのだけれども、僕も多分あの頃に感じていただろうザラザラとしていて苦々しいあの感覚が描かれていた。あの感覚。それは皮膚をやすりでこすって少しだけ擦り切れて出血したような痛みの感覚。そんな長い間思い出すことのなかった、90年代に僕が好んでいた感覚だ。
物語は2020年から始まり、2015年、2011年…。というように過去へさかのぼるように進む。
2010年代に婚約した女性に愛想をつかされて逃げられ、2000年代に先へ進めない恋を繰り返す主人公。
また主人公自身の境遇やキャリアコースも振り返ってみれば何も変わらない。今のこの仕事が自分自身にとってどんなものなのか。一生かけてやるべき自分の天職なのか。あるいは単なる時間の無駄なのか。ずっと確信を持てずにいる。
そんな宙ぶらりんの主人公のどうしようもない中年時代を散々見せつけられた後に、物語の核心である90年代に戻る。
その描かれ方も見事だ。主人公にとっての運命の女性たるかおりと主人公の「佐藤」との別れがまず描かれる。ときは1999年12月31日。そして彼女が彼の前から姿を消したのは2000年1月1日(というように僕には思えた)。「今度CD持ってくるね」そんな印象的な言葉を残して姿を消したそのとき。それが何度かリフレインされる。
その結果の後に「佐藤」とかおりとの恋の馴れ初めが描かれる。かおりは今で言うと不思議ちゃん系の女の子で90年代にはこんな女の子がよくいたなと思わせる。そして恋愛経験値が低い男ほど、こうした女の子との恋愛を夢見がちだったな。そんなことを(自分の経験も含めて)思い出されてくれる。
かおりと「佐藤」との恋愛。それは地球で火星人と木星人が恋に落ちた。そんな感じだ。つまり何をどう進めればゴールにたどり着くか。そういう類の恋愛ではなく、ノストラダムスの予言で5年間の猶予を与えられた二人がほんの刹那で出会ってしまったそんな恋愛だ。二人とも惹かれあって「好きになっていった」間柄だけれども、その恋愛には未来も過去もなく、ただ1995年からの数年間に限られてしまった事故のような恋愛。
二人はだんだん親密になっていく。そしてその恋は深まっていく。しかしその恋が深まっていったとしてもそれをどうすればいいのか。どうすれば永遠の愛につながるのか。多分両者にも、そしてその恋を見守っている僕達にもわからない。
ひたすら閉じこもるように渋谷の円山町で恋を育む二人。しかしその恋はそもそも起きるはずではなかったことなのだ。地球の大破滅が近づいているそのときでなければ、二人は多分出会うこともなかった。
だから二人の愛は1999年の12月31日に必然的に消滅しなければならなかった。だから2000年の夜明けとともに彼女は「佐藤」の元から去っていく。
この顛末を見せられて後にまた場面は2020年に戻る。
そしてある事象をきっかけに主人公の佐藤は走馬灯のように今までの人生を思い返す。しかしそれは苦々しい出来事の連続だ。
主人公は自分の人生から何一つ学ぶことはなかったし、本質的には90年代のあの行き止まりの恋から何も変わっていなかったから。

     *             *           *

大人になる。それはどういうことだろう。子供に囲まれ家庭を持つ。何がしかの人物になる。守るべきものを持つ責任ある人間になる。
そんな旧来から言われていたことだけが「大人になる」ことではないと思う。
例えば僕が中学生の時、ビートルズの「Don't Let Me Down」を聴いたときにジョンレノンは「大人」だなと思った。「She Loves You」と歌っていた頃と明らかに違うそのときのビートルズの面々。恋愛の酸いも甘いも知った後に、それでも一人の女性に愛を呼びかけるジョンレノン。その成熟した姿に中学生の僕は「大人」を見た。
ならば今の僕はそんな成熟した大人になったのか。その頃のジョンレノンみたいに大人の恋愛を語ることができるのか。
この映画の主人公「佐藤」も、そしてその姿をスクリーンで見ている僕も、そんなジョンレノンのような「大人」になれなかった。
「ボクたちはみんな大人になれなかった」

その暗くて地味で憂鬱なストーリーの中で、小沢健二の音楽が大きな意味を持たされている。それは僕らのような人生を送った人間にとっての「青春のうた」そのものが小沢健二の音楽だったからだろうと思う。
いつだっておかしいほど誰もが誰か愛し愛されて生きるのさ
そんな美しい歌詞が今になると苦々しく反転してしまっている自分の人生。それも含めてこの映画のテーマ曲は小沢健二でなくてはならなかった。
またこの映画ではとても美しいベッドシーンが描かれる。多分僕が見た映画の中でベストテンに入るくらいの美しいベッドシーンだ。
いつまでも永遠に見ていたい。そういう映画ではないのだけれど、90年代のジリジリとした焦燥するような退屈を思い出させてくれる。そんな映画だった。

そしてこの映画を見てしばらくして、僕はミッシェルガンエレファントの「世界の終わり」を思い出した。
世界の終わりはそこで待ってると
思い出したように 君は静かに待つ
そんな世界の終わりで繋がった二人。そこには愛があるのか、それ以外の何があるのか、曲を聞いただけではわからない。
2020年の今、その二人はどうしているだろうか。多分二人の関係は2000年代の始まりと共に終わった。そして今、二人は違う人生を送っている。1990年代は終わったようでなかなか終わってくれない。



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Last updated  2021.11.21 13:47:54
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trainspotting freak@ Re[1]:世界の終わりはそこで待っている(06/19) これはさんへ コメントありがとうござい…
これは@ Re:世界の終わりはそこで待っている(06/19) 世界が終わるといってる女の子を、「狂っ…
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zein8yok@ Re:ある保守思想家の死 西部氏によせて(03/02) 「西部氏の思想家としての側面は、彼が提…
trainspotting freak@ コメントありがとうございます aiueoさん コメントありがとうございます…

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