アルーシャの奇跡 -後編-
「アルーシャの奇跡-後編-」です。「前編」を読んでいない方はまず「前編」から読んでいただく事をお勧めします。前編へはココをクリック。長文ですが、ご了承ください。では。。。俺達はホテルのベッドに腰掛け、一息つきながら今後について打ち合わせた。アルーシャから、大使館のある首都ダルエスサラームまで15時間。次の日、すぐに出発しても、到着が土曜日で、月曜にならないとパスポート再交付は不可能。そこから再交付手続きをし。。。キリマンジャロまで戻り。。。予定より、一週間以上の遅れである。通常なら遅れてでもそうしたのだが、Cには遅れられない理由があった。今回の旅行は、俺達の卒業旅行。そして、同時期にCの彼女も友達と中東を卒業旅行中であり、トルコで4人で待ち合わせよう!という予定になっていたのである。トルコでの待ち合わせ日は、決まっている。再交付してからキリマンジャロに登っていては、待ち合わせに間に合わない。。。これは、キリマンジャロは無理だな。。。と思っていた矢先、Cが力強く言った「うん!悔しい!探しに行く!!」「探すって、どこへ!?」「バスターミナル!パスポート取り返す!」「お、おう」俺達は、再びあのバスターミナルまで戻ってきた。先ほど見た様子と変わらない盛況振りである。バスターミナルに着くなり、まずヤツが言っていたヤツのオフィスに足を向ける。が、閉まっている。。。さっきは確かに空いていた。。。ヤツが実行犯だという確信が強くなる。そうやってるうちにも俺達は客引きに取り囲まれる。俺達はそれを逆手にとって、その客引きたちに「パスポート盗られたんだ、探してくれないか?」と言う。客引き達は、俺達が客ではない事を知ると、すぐに去って行った。。。何人かは、「あぁ。分かった。探してやる」等と生返事を残して、立ち去っていく。「う~ん。思ったより、難しいな。。。」「ま、がんばろう」等といいながら、客引きに取り囲まれては、事情を説明、立ち去られ。。。を数回繰り返す。。。「。。。正直、状況は厳しいな。。。」と俺が感じたその時、Cが逆転の一手に出た。Cが取り囲んできた客引き達に向かって言う。「俺、パスポートを盗まれたんだ。犯人はそこのオフィスの、赤いキャップかぶったヤツ」「なぁんだ。客じゃねぇのか。。。」と客引き達が去ろうとした時、Cは続けざまにこう言った。「まぁ、待て、聞いてくれ。俺のパスポート見つけてくれたら、50ドルやる!」一瞬にして、客引き達の目がマジになる。「よし!分かった!」と、俺達を取り巻いていた客引きたちが、まさに蜘蛛の子を散らす勢いで走り去っていった。「ナイスアイデア!」「うん。密かに考えてた。ちゃんと50ドルも小額紙幣で渡す準備しといたし」ドルキャッシュは高額紙幣になればなるほど、換金率がいいのである。10ドル札10枚より、50ドル札2枚。50ドル札2枚より、100ドル札1枚、のように。Cは20ドル1枚、10ドル2枚、5ドル2枚を準備したのである。さすがは、歴戦の兵である。。。ヤツのオフィス前に腰掛け、朗報を待つが、なかなか進展がない。。。なぜか、俺達の脇にずっと一人の若者が立っており、そいつに聞いても、「もうすぐだ」としか答えない。。。おそらく、ヤツの仲間の一人なのであろう。。。どれくらい待ったであろうか。。。徐々に陽が傾き始めた。。。「おい。。。暗くなってきたら、やばいぜ。。。ミイラ取りがミイラになったら洒落にならんよ」「。。。うん。。。そうだな。。。明日、出直すか。。。」と、その時、ガキが一人駆け寄ってきた。。。「オマエのパスポート、見つかった。。。」「何!?どこだ!?」「こっちだ。ついて来い」ガキの後を俺達はついて歩く。バスターミナルから離れていく方角だ。。。「おい。大丈夫だろうな?どこまで行くんだ?」とたずねても、「こっちだ。もうすぐだ」としか答えない。5分ほど歩いただろうか。バスターミナルから程近い、幹線道路脇である。ふと気付くと、俺達の脇に真っ赤なカローラが近寄って来る。。。「ん?なんだ?」と車に目をやると、車は停まる事なく俺たちに並走し始めた。程なくフルスモークの助手席の窓が10cmほど下がり、真っ暗な車内に真っ白な二つの眼が浮かび上がる。車内を覗き込もうとしたその瞬間、赤いパスポートが姿を出した。「おい!C!!日本のパスポートだ!」「なに!ああ!あった!俺のだ!!」「いや、待て。日本のだが、オマエじゃない別人のかも知れんぞ!」と、俺達がやり取りしていると、車内の人物も、疑われているのに気付いたのか、パスポートの1ページ目を開き、写真を トントン と指差すではないか。その黒い指先の写真は、間違いなく、Cのものであった。Cが右手を伸ばしパスポートをつかむ。車内の人物も左手のパスポートを離さず、右手で「金をよこせ」と合図をする。Cが左手で50ドルを出す。車内の人物が右手で50ドルをつかむ。左手のパスポートは離さない。Cも50ドルの手は離さない。その最中も、車は止まることなく、動いている。一瞬のこう着状態。。。C、パスポートを奪取。車内の人物は50ドルをもぎ取り、車は急加速し走り去っていった。。。「アルーシャの奇跡」の瞬間である「やった!」「よかったな!」と俺達は一瞬興奮状態になったが、気付いてみると、そこまで案内してきたガキの姿もなく、辺りがだいぶ暗くなってきた事に気付き、冷静さを取り戻す。「さっきの車の連中とか、仲間に尾行られても、アレだから、ちょっとまいて帰ろうぜ」と本来は15分でつくホテルまでの道のりを、30分以上かけて帰ることにした。ホテルまでの道で、Cは言った。「さっき、パスポートと金の取り合いしてた時、車ん中真っ暗で、眼しか見えなかったんだけど、あの眼、絶対忘れないよ。。。客引きのギョロ目だったよ。。。」その後、ホテルに着き、祝杯を挙げ、愉快な夜を過ごし、一日遅れでキリマンジャロに出発。無事にキリマンジャロ登頂を果たし、トルコでCの彼女達と無事に待ち合わせる事ができ、楽しい卒業旅行を終える事ができた。「あの時、オマエがいてくれなかったら、取り返そうなんて思わなかったよ。一人で、あそこで佇んで待ってる事なんて考えられないもんな」その後、Cはそう言うが、俺は何もせず、見守っていただけだ。逆にCの姿を見て「あきらめたら、そこで終わり。あきらめなければ、道は見つかる」という事を改めて、教えてもらったと感じている。アルーシャの奇跡があったからこそ、その後のキリマンジャロ登頂も成し遂げられたと思っている。しかし、あの時の出来事を、苦労自慢とする気はさらさらない。あの後、冷静に考えて、かなり無茶な事をしたものだ、と思っている。下手したら、誘拐されたり、命を落としていてもおかしくなかったかも知れない。パスポートなどを盗まれたら、やはり、警察に行き、大使館で再発行するべきである。これは、その後Cも同様の事を言っている。無事に何事もなかったから言えるのだが、あの時の経験はその後の俺に大きく役立っていると思う。「あきらめたら、そこで終わり。あきらめなければ、何らかの道が開くものだ。。。」と。。。-完-追記:この友人Cは只今世界一周しながら、リアルタイム旅行記をアップ中です。 リンクのCHUZO.netが彼のページです。是非ご覧ください。BLOGランキング。どうぞクリックよろしくm(_ _)m