吉村昭氏逝去の報に接して、ふと書棚にある短編集が目に付きました。
明治以来日本の近代とは、故郷喪失の時代であったと言われます。
更に軍事体制が君臨した昭和と言う時代は意識統制が世の中を席巻し、その時代を生きた日本人にとって最大の苦痛は有無を言わせぬ戦争参画でした。結果として、敗戦と言う苦痛を通過させることで、否応なく昭和と言う時代の苦痛を償ったのでありました。
吉村昭氏はそうした人間の苦痛を知る人でもあり、その生きた世界を大切にする人でもあり、徹底した調査、取材を行ってそうした人間の世界に大胆に踏み込んで行ける人でもありました。
新潮文庫 短編集「脱出」(昭和63年11月発行)
昭和20年夏、敗戦へと雪崩落ちる日本の、辺境と言うべき地に生きる人々の生き様を通し、昭和の転換点を見つめた作品集。突然のソ連参戦で宗谷海峡を封鎖された南樺太の一漁村の村人の、危険な脱出行を描く表題作。撃沈された沖縄からの学童疎開船「対馬丸」に乗船していた一中学生の転変をたどる「他人の城」など5編が収められています。
脱出、 焔髪、 鯛の島、 他人の城、 珊瑚礁
解説 川西政明
何か昭和と言う時代が遠ざかりつつある気配、中村草田男ではありませんが、
夏雲や昭和は遠くなりにけり
と言った気分となって来ました。
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