以前は家に仕事場があった。
そこには好きな本も好きな音楽もあり、ある意味書斎であったわけなのだが、今はない。
余りしないことではあるが、みなが寛ぐ居間にて携帯に保存したトム・ウェイツをイヤホンにて聴く夜である。
ピアノが酔ってしまった曲を、酔って疲れた男がイヤホンで聴く夜。
音に酔いながらも、イヤホンで聴いている状況には常に不安が付きまとう。
生活音が聞こえない恐怖。
何もないだろう、何も起こらないだろう。しかし、家にて生活音が聞こえない状況は不安を煽るものである。
昨夜は勢いでネットから一曲、僅かな金銭で曲をダウンロードして楽しもうとする気持ちが沸き起こったのだが、アルバムで聴きなれた曲を一曲だけ自らのものにする、ということに、寂寥感というか、空しさというか、言い切れない空虚さを覚えて、止した。
便利は良い、しかしそう簡単には計れない何ものかが、かような行為を嫌う。